2018年11月20日

手話の場合『通訳者の位置は隣ではありません』


今回は、聞こえない方が、会社の面談や仕事環境のインタビューに呼ばれた時、または就職案内におもむいた際。また、学校の保護者会などで、通訳を同行した場合の、『聞こえるアナタ』の手話通訳についての対応方法について、ご紹介します。
あなたは、会社関係者かもしれませんし、学校の先生かもしれませんし、医療や福祉・行政関係の担当者などかもしれません。

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私たち手話通訳者が、聞こえない方とともに手話通訳に同行した際のケースです。
手話通訳者が通訳に伺った際、多くの場合、お迎えくださる聞こえる方(会社・学校・行政関係者等)が、図1のように、席を準備して待ってくださっています。

多くの方が、テレビなどでもよく見る、音声の言語通訳をイメージしておられ、通訳者は、ご本人の横!又は近くに!と、思っておられるからだと思います。
でも、私たちは、このような際、必ず、お相手の方に、席の配置を変えていただくようお願いしています。
今回の投稿は、この席位置がテーマです。

(図1)
「聞こえない方の隣に手話通訳者が座る」
図1聞こえない方の横.png

図1のような通訳位置は、実は、手話ではあまり向いていません。
この状態は、手話通訳者が、聞こえない方の手話を真横から見て読み取ることになり、見づらいこと。
また、聞こえる方の音声によるお話も、手話通訳者が聞こえない方の真横で手話にして伝えることになり、聞こえない方ご本人にとって、この位置が見やすい方向ではないからです。

この、通訳者の位置のとらえ方の違いは、なぜ起こるのかというと、一般に「通訳」ときいて、皆さんが思い浮かべるのが英語でもその他の言語でも、基本的に「耳で聞きくことば」の通訳シーンだからかと思います。多くの方が「通訳」という言葉を聞くと反射的に「あの『横でメモを取りながらうんうんと話を聞いて、内容を相手の言語に訳して話してくれる方』が来るわけだから『お隣に座っていただこう』」と考えてしまうのです。
一方、手話は「目で見る言語」でありその通訳は、「見えていなくても(または見ていなくても)聞こえる」音声言語とは違い、「目で見える形(視覚でとらえられる位置)で表出されなければならない」という点が、一般の方にはピンとこないのです。

では、聞こえない方と手話通訳者を介して、お話をする場合、それぞれの方の位置は、どのような関係になっているのが適切なのでしょうか?
改めて、「目で見る言葉」=『手話』で行う通訳の、対面会話での、理想的な席位置について、その例をご紹介します。


(図2)
「聞こえない方と聞こえる方の双方が見える中間の位置に手話通訳者が座る」
図2間.png                              

図2は、手話通訳者の理想的な位置の例の一つとなります。
通訳者が、聞こえない方と、聞こえる方の間の位置に入り、どの立場の方からも互いの表情や手話がよく見えます。
この例で良い点は、
〇 手話通訳者も、聞こえない方の手話が見えやすく、適切な読み取り通訳がしやすくなる。
〇 手話通訳者が、聞こえる方の音声を手話に変えて伝える場合も、聞こえない方にとって、手話も聞こえる方ご本人の表情なども、よく見える位置になる。
〇 手話通訳者が、互いの中間位置にいるため、中立的印象が保たれる。
などがあります。

(図3) 
「聞こえるアナタの隣に手話通訳者が座る」
図3聴者横.png
      
図3は、最初の図1とは反対に、聞こえる方の横に手話通訳者が配されています。
これを見ると、なんで通訳者が聞こえる人の側にいるの?と、違和感を感じる方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、これは、目で見る言語としては、良い通訳位置の一つになります。
この位置関係によって、
〇 音声の話し手と手話通訳が近くなり、聞こえない方からは、手話で伝えられる通訳の内容と、話す本人の表情や話の間(ま)が同時に見られ、意味合いや雰囲気がつかみやすくなる。
〇 聞こえる方にとっても、目の前の聞こえない方の手話を見ながら、読み取り通訳の音声が耳元から聞こえてくることになるので、話が自然に頭に入ってくる。(通訳者が目に入らない)
という、良い点が生みだされます。
ただ、この場合気になるのは、
〇 聞こえる方の側に通訳者がいることで、聞こえない方にとって、圧迫感が生じる可能性がある。
ということです。

そこで、この場合、私たちは、図4のような配置を提案します。

(図4) 
「聞こえない方と聞こえる方が向かい合う位置に座り、手話通訳者が少し外した位置に座る」
図4通訳者が少はずれる.png
      
図3と図4は、似ていますが、よく見ていただくと、座席の位置と意味合いが違っているのが分かります。
図3では、聞こえない方の向かいに、聞こえる方と通訳者が二人で正面に座る形になっていますが、図4では、聞こえない方の正面は、聞こえる方一人。その横の端に、手話通訳者が座っています。
この位置であれば、聞こえない方からのパッと見の印象も、話し相手は聞こえる方。その横に通訳者がいる。と感じられ、圧迫感が軽減されます。
ちょっとした位置の違いですが、こうした配慮で、互いがよりリラックスして話せる環境が整います。

長くなりましたが、私たちは、最初の図1のようなお席のご案内をいただいたときは、お気遣いに感謝した上丁重にお断りし(笑)、図2又は図4の状態をご提案しています。

なお、今回ご紹介した例は、すべてのケースの唯一の正解ではありません。こうした環境は、場面・場所・時によりさまざまに変化します。
「手話は目で見る言葉」。関わる皆さん同士が互いにその特徴を理解することで、聞こえない方と手話通訳者の位置も、自然と良き場所が探り出せるのではないでしょうか?



<情報提供:手話あいらんど/南 瑠霞>
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2018年11月16日

手話通訳のご依頼は2人体制で〜通訳の質を大事にすることは聞こえない方への心づかいです


このところ、
「聞こえない方が見えるかどうかわかりません。
念のため1人だけ手話通訳の派遣をお願いします。」
「2時間ですから、お一人で手話通訳は可能ですよね。」
と言った、お問い合わせが、増えています。
たぶん、各地の手話通訳者の方が、
このような依頼を受けて、戸惑われているかと思います。

なぜ、各地で・・・と、私共が気づくかといえば、
もちろん、通訳仲間の互いの話からも知ることになるのですが、
実は、通訳をお願いしたいと、ご連絡くださる方自らが、
「別のところでも、2人体制でと言われたのですが、
おたくでも、同じですか?
できれば、1人できていただきたいのです。
なぜ、通訳者は2人体制なのでしょう?」
と言うお問い合わせが、増えてきているからです。

お一人だけで・・とご依頼下さる方は、
「そんなに大げさな状態できていただいても、
聞こえない方は1人か2人。そこまでして準備することではない。」
と思っておられる方もいます。
また、
「イベントによっては、せっかく準備して通訳者に来てもらっても、
万一にも、聞こえない方がお越しにならないかもしれない。
そうすれば、うちの予算はもとより、来ていただいた通訳者に申し訳ない。」
「通訳者を呼ぶには、それなりの費用がかかる。
2人にきてもらうと、人件費も交通費も2倍かかるので、予算を抑えたい」
と言う方もおられます。

しかし・・・
これらを押して、やはり私共も、
「通訳者は2人からのチーム体制で」とお伝えしています。
それは、通訳の質の低下が、
最終的に聞こえない方にとってマイナスにつながるからです。

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基本的に、英語など他の通訳も含め、現在国内外では、
同時通訳における集中力と質を維持できる一回の継続時間は、
15分程度だとされています。
およそ2時間の内容では、
2人が組んで、15分前後の交代で行なうのが、
どのような言語通訳でも、適切と言われているのです。

この時間管理は、通訳者が精神疲労を受け、
必要以上に、体を壊してしまわないためでもあります。
通訳のための思考回路は、普段自分が自由に話しているときと違い、
二つの言語の間を行き来し、大きな集中力が必要です。
また、手話では特に、腕や表情も含め、上半身の筋肉を使っての通訳が多く、
かつて、通訳者の間で、
「頸肩腕症(けいけんわんしょう)」と呼ばれる、
異常な肩こりや、首や腕の痛みを激しく訴える症状が多発した時代があります。
これは、ちょっとだけだから頑張れると思った通訳者が、
結果として毎日、何時間も手話通訳し続けたために、起きてしまった症状で、
今でも、通訳者が最も注意しなければならない病気の一つとされています。

「通訳がうまい」人を見れば、
誰もが「その人なら簡単にできる」から、
どんどん頼んで良い。と軽く考えてしまいがちになります。
また、本人も「簡単にできる」だけに、
「大したことはしていない」「私なら、大丈夫」と、
思い込んで通訳してしまい、「知らない間に重大な疲労を抱え込み」、
最終的に、それが体の不調となって現れてしまうというもので、
一時期、この「頸肩腕症」は、
手話通訳業界では大きな社会問題となりました。
通訳者の健康を守るためにも、
この時間管理は、大切なものになります。

また、およそ15分とされる通訳時間を超え、
集中力の低下した通訳者の伝える内容は、質が下がり、
適切な内容が、聞こえない方に届けられない可能性が高くなってしまいます。

手話通訳者は「2人1組」といわれるのには、
こうした背景があるんですね。

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「聞こえない方を会場にお呼びして歓迎したい!」と心を込めてお考えの、
主催者・クライアントの皆様には、
これらの点についても、私たちと共に、ご一考いただければ、
それは、主催者の皆様にとっても、聞こえない方々にとっても、
より良いイベントにつながるものと思います。

この考えは、全ての場合における唯一の正解ではありません。
様々な条件により、必要な体制も変わってきますが、
ぜひ、あなたのイベントの成功のため、参考にされてください。

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ちなみに、最初に書かせていただいたお問合わせへの簡単なお返事は以下のようになります。
私どもは、主催者のあなたと、会場に訪れる聞こえない方の間で、より良いコミュニケーションが成立するよう、心からお手伝いしたいと考えております。私たちは、主催者のあなたのパートナーとなり、あなたの心を届けるためにこそ、聞こえない方をお迎えできる快適な環境を共に整えたいと願っています。

Q 「そんなに大げさな状態できていただいても、聞こえない方は1人か2人。そこまでして準備することではない。」
A 「手話通訳者は、一つの話題を通訳する場合、聞こえない方が、お1人でも100人でも、同じ通訳をご覧いただくことになり、手配の手間や通訳者の負担は同じです。聞こえない方の人数規模には、あまり関係がありません。」

Q 「イベントによっては、せっかく準備して通訳者に来てもらっても、万一にも、聞こえない方がお越しにならないかもしれない。そうすれば、うちの予算はもとより、来ていただいた通訳者に申し訳ない。」
A 「その場合でも、もし聞こえない方がお越しになれば、1人で長時間の通訳はまかないきれません。万一に備えても、準備の仕方は同じです。また、逆にその場合、聞こえない方がおられなくても、最初から手話通訳を会場に設置しておくという方法もあります。そうすれば『このイベントには手話通訳があるんだ』と周知され、次回から聞こえない方が参加しやすい雰囲気が作れます。」

Q「通訳者を呼ぶには、それなりの費用がかかる。2人にきてもらうと、人件費も交通費も2倍かかるので、予算を抑えたい。」
A 「ご予算は、それぞれのケースでご相談ください。笑 なお、イベントに通訳者をつける主旨を改めてお考えください。『聞こえない方に来ていただきたい』と願うあなたのお考えに沿った手配方法をご検討ください。」



<情報提供:手話あいらんど/南 瑠霞>
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2018年11月13日

「手話通訳の立ち位置は演者(話者)の近くに」〜シンポジウムなどの手話通訳者の配置を成功させるために


最近、オリンピック・パラリンピックなどにまつわるイベントが増え、舞台等に、手話通訳者を設置したいと考える主催者の方が増えました。

舞台行事に手話通訳者をつけるという試みは、聞こえない方も、そこに参加してほしいという願いの込められた、まさに、共生の思いに基づいたものであり、社会は、これまでとは大きく変わり、今、新しい時代へと向かう、熱さ暖かさがみなぎっています。
その中で、私たちは、さらに、主催者・クライアントの皆様とともに、より良い手話通訳の設置方法について、共有していければと考えております。

今回は、シンポジウムなどの場面での、一つの理想的状態をご紹介します。

手話通訳を設置するということは、ある意味、今までとは、舞台の演出が変わる面もありますので、演出・舞台監督の皆様にも、ご一読いただけることをお願いいたします。

重要なポイントは、「手話は、目で見る言語」だという点です。
これを、第一にイメージすることで、手話通訳を配置する意味(あり方)が運営スタッフ全員に行きわたり、聞こえない方の会場参加の機会がより豊かなものになります。

それでは、舞台通訳の一例を、図面とともに見ていきましょう。

手話通訳を設置したいと試みる皆様が、第一にイメージするのは、司会者の横に立つ、通訳位置かと思います。
これには、大変良い面とともに、改善余地のある部分があります。
今回は、これがこの記事のテーマです。
4つのポイントをまとめてまいります。

司会の横に立つ手話通訳者.png
@ 司会者の横を手話通訳の定位置と定め、ここに照明が準備されて、手話通訳者が常にここに入る方法。これは、司会者の横で通訳をすることになるので、全体の進行がわかりやすい良い場所の一つになります。

ところが、これを、そのまま全ての場面に当てはめると、次のようなことが起きます。

中央の講演者と手話通訳者が遠い.png
A 中央の演壇で、主賓等がごあいさつや基調講演をされる場合、舞台の端に通訳者がいると、中央の人物と通訳者が離れてしまい、聞こえない方は話の内容を理解するために、通訳者から目を離すことができません。結果として、聞こえない方は、講演者のお顔をあまり見ることができない可能性が高くなります。

レポート発表者と手話通訳者が遠い.png
B また、登壇者がレポート発表する際、舞台上手(かみて/客席から向かって右)に位置し、中央にスクリーンを設置して解説するなどの場合は、さらに通訳者との距離が離れます。
こうした時、通訳者が反対の端にいては、聞こえない人はどこに目をやるべきか迷いが生じます。
内容を注視するためには、どうしても通訳者の手話を見続ける必要があり、スクリーンと通訳者を見るのが精一杯で、発表者は目に入りづらく、聞こえない方から見ると、手話通訳者が発表者かのような印象になってしまうケースも。

パネルディスカッションで手話通訳者が遠い.png
C さらに混乱するのがこの場面。
パネルディスカッションのシーンで、通訳者が舞台端にいると、次々発言される意見が、誰のものかわかりづらくなり、1人の通訳者ではまかないきれない場合も出てきます。

このように、一定の場所のみを指定した手話通訳者の立ち位置は、聞こえない方にとって必ずしもわかりやすい状態ではないということが、おわかりいただけると思います。
手話は「目で見る言葉」であり、手話通訳者が演者・話者の近くに立つことで、聞こえない方は話者ご本人の顔や動きや表情と、話の内容を同時にとらえられるチャンスが広がります。

理想の状態は、例えば、以下のようになります。

中央の講演者の横に手話通訳者が立つ.png
「中央登壇者の手話通訳は中央に」
中央の演台の講演者の近くに手話通訳者を配置することで、聞こえない方が、話し手本人と手話の両方を見ることが可能に。話し手の表情なども確認でき、話題について行きやすくなります。

レポート発表者と手話通訳者が近い.png
「舞台端での発表・発言は、そのそばに手話通訳者を」
舞台の発表者の近くに手話通訳者が立つことで、聞こえない方にとって発表者も目に入り、レポート内容がよりわかりやすく伝わります。

パネルディスカッションでの手話通訳者の適切な位置.png
「大勢の方が発言する場合、手話通訳者はその人の後ろに回り込む」
パネルディスカッションなどでは座長(コーディネーター)と、パネラーの通訳者を分け、通訳者はパネラーの発言ごとにご本人の後ろ近くに回り込むことをお勧めします。これで誰が何を発言しているか、一目でわかりやすくなります。

以上、いくつかの場面別に、手話通訳者の立ち位置の実例をご紹介しました。

「手話通訳の立ち位置は演者(話者)の近くが理想」。
私たちは、こうした点も、主催者・クライアントの皆さんと共有し、聞こえない方にとって、より良い手話通訳環境を目指したいと考えます。
もちろん、立ち位置や舞台上の設置は、その日その場の様々な兼ね合いにより、条件も大きく異なり、これが唯一の正解ではありませんが、あなたが主催するシンポジウムなどのイベントで「聞こえない方と手話通訳について配慮したい」と考えた場合、より良い舞台を成功させるための、一つの重要な手掛かりとなるかと思います。

実は、今回、この案件を、本番1時間前に素早く対応し、すべて解決して通訳者を理想的な条件で動かせていただいた現場がございました。皆様のおかげで、良い通訳環境が確保でき、聞こえない方にとって見やすい通訳が設置できたという良き一例となり、大変感謝しております。
それぞれの立場は違えども「思い」や「目標」を共有できれば、様々な難点も周りの方々ととともに乗り越えていけるという実感をいただき、心にしみました。
今後とも、皆様とともに一歩ずつ、”みんなが快適になれる環境づくり”について思いを寄せていければと思います。

手話あいらんど 代表 南 瑠霞(手話通訳士)



<情報提供:手話あいらんど/南 瑠霞>
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