まだ ~ない
「37歳で医者になった僕」
今回、ドラマで手話コーディネートを担当させていただき、
翻訳において、いくつか苦労した点がありました。
このブログで、何度も紹介させていただいている
「音声対応手話」と「日本手話」
(* 関連記事は、こちら
「ミムラさん(すず)の手話」 http://minamiruruka.seesaa.net/article/265055421.html
「失声症の方と手話」 http://minamiruruka.seesaa.net/article/269049831.html
「いろんな手話」 http://minamiruruka.seesaa.net/article/272491392.html )
この違いが、明らかに出る文例が、セリフの中にいくつか出てきました。
その一つが、「まだ~ない」という表現です。
日本語では、この、「まだ」
「まだ、食べてない」「まだ、買ってない。」など、
後ろに「~ない」の否定が来る場合も、
「まだ、やることがたくさんある」「まだ、大丈夫」など、
後ろに、肯定が来る場合も、使います。
ところが、ネイティブのろう者の日本手話では、
この「まだ」、
使い方も、用いる個所も、ちょっと違います。
まず、語順。
日本手話では、
「まだ、食べてない」は、
「食べる」「まだ」とあらわすほうが、ナチュラル。
「まだ、買ってない」も、
「買う」「まだ」と表現したほうが、自然に近い。
また、手話の「まだ」には、
「目標地点に届いてない」、「足りない」
という、ニュアンスがありますから、
「買ってない」「行ってない」など、
否定形にはつくことがあっても、
「まだまだ、時間がある」「まだ、やれる。」など、
「たくさんある」「もっとできる」という意味合いの文には、
基本、用いられません。
もしこれを、
「たくさん」「まだ」とあらわしたら、ある意味「数が足りない」
「できる」「まだ」では、「やれる力に到達していない」
とも読まれかねず、
意味が、全く逆転して伝わってしまうこともあります。汗
ですから、肯定の意味合いの強い文の場合、
日本手話では、「まだ」という単語は基本的に用いられません。
「まだ、たくさんある」「まだ、できる」という文は、
日本手話では、
「たくさん『残り』がある」「『もっと』できる」、
または、「『まだ』に当たる部分を表さず、意訳する」などが、
よりナチュラルということになります。
さて、ここまで考えて来ると・・・・
皆さんにも、思い当たる個所があるかと思います。
9話で、ミムラさん演じるすずが、病室で祐太に、
「元気になったら・・・
やらなきゃいけないことが、まだまだたくさんある」と
話すくだりがあります。
ココ・・・・私達は、翻訳するとき、
ちょっと、迷いました。
この「まだ」は、日本手話では使わない『まだ』・・・汗!
でも、このドラマでは、
すずの頭の中は基本的に完全なる「日本語」であり、
彼女が使う手話は「音声対応手話」。
体を横たえ、自分の思いを一生懸命話す すずに、
このシーンで、日本手話的言い回しを強いるのは、
ドラマ的にナチュラルではないと判断、
私達は、そのまま、
「まだまだ」「たくさん」「ある」
と、手話をつけさせていただいています。

今回のドラマを通じて、
改めて、「音声対応手話」と「日本手話」について
いろいろ考えさせていただくチャンスをいただき、
とても、よかったと感じています。
私が、若き頃、
ろうの友達と、はしゃぎまわって覚えた手話は、
今、様々な方が、様々な形で学び、
多くの人が、
コミュニケーションを豊かにする方法の一つとして、
大事に愛して、使っておられること、
教えていただきました。
ろうの人たちが、長い歴史と積み重ねの中で、
生み出し、つなぎ、伝え、育ててきた手話について、
これからも、皆さんと共に考えていければと、思います。
ありがとうございます。
今回、ドラマで手話コーディネートを担当させていただき、
翻訳において、いくつか苦労した点がありました。
このブログで、何度も紹介させていただいている
「音声対応手話」と「日本手話」
(* 関連記事は、こちら
「ミムラさん(すず)の手話」 http://minamiruruka.seesaa.net/article/265055421.html
「失声症の方と手話」 http://minamiruruka.seesaa.net/article/269049831.html
「いろんな手話」 http://minamiruruka.seesaa.net/article/272491392.html )
この違いが、明らかに出る文例が、セリフの中にいくつか出てきました。
その一つが、「まだ~ない」という表現です。
日本語では、この、「まだ」
「まだ、食べてない」「まだ、買ってない。」など、
後ろに「~ない」の否定が来る場合も、
「まだ、やることがたくさんある」「まだ、大丈夫」など、
後ろに、肯定が来る場合も、使います。
ところが、ネイティブのろう者の日本手話では、
この「まだ」、
使い方も、用いる個所も、ちょっと違います。
まず、語順。
日本手話では、
「まだ、食べてない」は、
「食べる」「まだ」とあらわすほうが、ナチュラル。
「まだ、買ってない」も、
「買う」「まだ」と表現したほうが、自然に近い。
また、手話の「まだ」には、
「目標地点に届いてない」、「足りない」
という、ニュアンスがありますから、
「買ってない」「行ってない」など、
否定形にはつくことがあっても、
「まだまだ、時間がある」「まだ、やれる。」など、
「たくさんある」「もっとできる」という意味合いの文には、
基本、用いられません。
もしこれを、
「たくさん」「まだ」とあらわしたら、ある意味「数が足りない」
「できる」「まだ」では、「やれる力に到達していない」
とも読まれかねず、
意味が、全く逆転して伝わってしまうこともあります。汗
ですから、肯定の意味合いの強い文の場合、
日本手話では、「まだ」という単語は基本的に用いられません。
「まだ、たくさんある」「まだ、できる」という文は、
日本手話では、
「たくさん『残り』がある」「『もっと』できる」、
または、「『まだ』に当たる部分を表さず、意訳する」などが、
よりナチュラルということになります。
さて、ここまで考えて来ると・・・・
皆さんにも、思い当たる個所があるかと思います。
9話で、ミムラさん演じるすずが、病室で祐太に、
「元気になったら・・・
やらなきゃいけないことが、まだまだたくさんある」と
話すくだりがあります。
ココ・・・・私達は、翻訳するとき、
ちょっと、迷いました。
この「まだ」は、日本手話では使わない『まだ』・・・汗!
でも、このドラマでは、
すずの頭の中は基本的に完全なる「日本語」であり、
彼女が使う手話は「音声対応手話」。
体を横たえ、自分の思いを一生懸命話す すずに、
このシーンで、日本手話的言い回しを強いるのは、
ドラマ的にナチュラルではないと判断、
私達は、そのまま、
「まだまだ」「たくさん」「ある」
と、手話をつけさせていただいています。

今回のドラマを通じて、
改めて、「音声対応手話」と「日本手話」について
いろいろ考えさせていただくチャンスをいただき、
とても、よかったと感じています。
私が、若き頃、
ろうの友達と、はしゃぎまわって覚えた手話は、
今、様々な方が、様々な形で学び、
多くの人が、
コミュニケーションを豊かにする方法の一つとして、
大事に愛して、使っておられること、
教えていただきました。
ろうの人たちが、長い歴史と積み重ねの中で、
生み出し、つなぎ、伝え、育ててきた手話について、
これからも、皆さんと共に考えていければと、思います。
ありがとうございます。