「ろう者」という言葉

2014年12月25日
神奈川県で可決した「手話言語条例」の中には、
「ろう者」という言葉が盛り込まれています。

ろう者・手話関係者の間で、
このことは、重大な意味を持って受け取られています。

実は、この「ろう者」という言葉、
これまで、新聞等であまり取り上げられてきていません。
え?そういう問題や手話の話題では、
当然、ろう者のことも出てくるよ!!
という方もおられるかもしれません。
でも、よーく、かつての記事を見直してみてください。
その記事には、たいていの場合、
「ろうあ者」と表記されていなかったでしょうか?

実は、新聞など公共出版関係者の間では、
ろうの人を意味する一般的表現として、
「ろうあ者」が適切であると言われ、
そうでない表現は、
一般の人にわかりづらいという理由で、
採用されにくい傾向がありました。

今まで、私たちが、様々なメディアで受けた取材でも、
私達が「聴こえない人」「ろう者」と表現したいと
意思表示した場面でも、
あえて「ろうあ者」と書き直されてしまったことが
何度もあるのです。

一方、手話の現場では、
この「ろう者」という言葉は、
すでに、ここ十数年、かなり一般化されており、
「ろう者」という言葉自体が、
ろう者自身のアイデンティティを示す
大切な1語として、示されてきています。

もともと多く使われてきた「ろうあ者」という言葉は、
漢字では、「聾唖者」と書かれ、
聾=聴こえない
唖=話せない
ことを意味します。
しかし、教育の変化により、
聾だからと言って、必ずしも発声・発語、
また日本語が、不得意だという人がだんだん減ってきたこと、
また、そもそも、
聴こえないことに起因する話せないという状態は、
言語障害というより、
単に聴こえないことから発生した事象であり、
障害の一つとして考えるべきものであるかどうか疑問。
などの声も出され、
さらに、「ろう」ということ自体、障害ではなく、
手話という一つの言語・文化を持つ、
独自の存在であると考える人も増える中で、
「聾唖」という言葉は次第に使われなくなり、
今では、「ろう者」ということばが、
広がっているのです。

そうした流れの中、
一方のメディアでは、
「ろうあ者」という言葉を採用したがる傾向があり、
現場では、少なからず、様々な場面で、
摩擦が起きていたことは事実です。

そうした背景を考えると、
県という立場の条例の中で、
法的にこの言葉が、堂々と登場してきたことは、
まさに、多くのろうの人たちの思いそのもの。
条例成立とともに、熱くその意味をとらえた人は、
大勢いたことと思われます。

ろう者とは、手話言語と独自の文化を持つ存在。
手話言語条例成立は、
障害・福祉といった側面からばかり見られていたろう者が、
本来、ごく普通の一人の人間であり、
手話は、言語であり、
当たり前の存在として受け入れられた瞬間であったと、
私は確信します。

この記事を見て、へえ!!
と思ってくださったあなたも、
「ろう者」という言葉について、
ちょっと、考えてみてくださいね。

神奈川県 手話言語条例成立
おめでとうございます。

条例可決.png
写真は、読売新聞の記事から
http://www.yomiuri.co.jp/local/kanagawa/graph/article.html?id=20141225-OYTNI50051

神奈川県手話言語条例ページ
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f531791/