舞台の通訳 どうすればいいの?

手話通訳の勉強中の方から、お問い合わせがありました。

「私は、地域で通訳活動をしています。
でも、舞台通訳が苦手です。
いつも先輩方に、
『間が違う』とか『手話が小さい』と言われ、
いつもと同じように一生懸命やっているつもりなのに、
いろいろダメ出しを食らってしまいます。
どうしたらいいでしょう?」

うーん、なるほど。
実は、これと似たようなことで、
以前、ろうの方から、相談を受けたことがあります。

「ある手話のうまい友人は、
日ごろちょっとした通訳もしてくれるし、
飲み会などでも、フツーに通じて、めっちゃ楽しい。
ところが、この前、自分と一緒に人前で話す機会があり、
お話や通訳を頼むと、とても分かりにくかった。
さっきまで一緒に話していた友人とは、まるで違って、
みんなに手話が通じなくなってしまった。
なぜ???」

これ、もちろん、通訳する人が、人前で上がってしまって、
うまくできなくなってしまった・・・ということもあるのですが、
その前に!!
実は、対面で少ない人と話す時の手話と、
舞台など大勢の方を前に話す手話には、
違いがある・・ということを、
整理する必要がありそうです。

このろうの方の例では、
私が見ていると・・・なんと!!
そのろうの方本人は、人前に立つと、
手話が大きくなり、
より大勢に通じる単語を選び、はっきり手を動かす!!
ということを自然にやっていたのです!!
つまり、ろうの方は、個人的な話のときと、
大勢の方に語りかけるときの手話が、
明らかに違っていたのです。

これは、どちらが正しいとか、どちらが間違っているとか、
日本手話か、音声対応手話かという問題ではありません。
お話が得意なろうの人は、
相手の人数に合わせて、きちんと伝わるように、
日ごろから!! 無意識に!! 表現を変えているのです!!

これ、一般に音声言語でも、同じことが言えます。
互いに通じ合っている人と、個人的に話す時は、
小声で、主語や目的語を抜いて、
あれ、それと、代名詞ばかりを使っても、
通じたりすることがよくあります。
いつも気の合う仲間なら、こういう話し方のほうが、
親近感もあって、かえっていい場合もたくさんあります。
逆に、ていねいに話す方が、
気持ちが悪いですもんね。笑
私達は、親しい人には、
妙に丁寧に話したり、敬語を使ったりは、しないのです。

ところが、
初めてお会いする目上の人などにはどうでしょう?
この時、もし、私たちがため口をきいたり、
丁寧な言葉遣いを欠いてしまったりすると、
なんだか違和感があったり、
失礼な感じがするのは、誰にでもわかることだと思います。
私達は、そうした時には、敬語を使ったり、
また相手の人数が多ければ、
声も大きく、出来るだけみんながわかる一般的な単語を選んだしして、
工夫しながら、自然にその場に合った話し方を選んでいます。

場面によって、
「今日は、いい天気だね。」は、
「本日は、良いお天気に恵まれましたね。」とか、
「めっちゃ、かわいいじゃん、その服。」が、
「とても、愛らしい服をお召しですね」などに。
また、2~3人なら、
「じゃ、行きましょうか。」とさりげなくかける言葉も、
10人20人の人には、
「皆さん、それでは、行きますよ~」と、はっきり大声になったり。

そして、こうしたことは、
言葉の滑舌でも、文法の間違いの問題でもなく、
私たちは、ズバリ!!
「相手の立場や人数によって、
声の大きさも、単語も、話し方も、変えている!!」
ということです。

さて、話は戻って、ろう者との付き合いも深い、
とある耳が聴こえて、手話がうまいその人は、
いつも、目の前にいる少人数のろう者と、
わからなければ途中で誰かが話しをはさんだりして、
「会話」をする、まさに、日常手話を使っていました!!
これは、会話としては、とても優れたもので、
相手とのコミュニケーションも、より深く取れ、
個々の表現を互いがつかみ合うという点で、
かなり高度な手話です。
ただ、この人は、友達とでも、
多くの人の前でも、この手話を使っていたのです。
でも、ろうの友達と、個人的にあうんの呼吸で通じていた手話と、
何も知らない初めて会う大勢のろう者とでは、
ちょっと勝手が違ったのです。汗

友達付き合いから始まった手話が、
たまたま すごくうまくなり、
日頃、手話通訳についてもあまり学んだことがなく、
また、ろうの人のように、
人前に立つという経験も少なかったその人は、
たまたま、ろうの友人に誘われて、人前に立ち、
まさに、いつもと同じ「友だち手話」を使ってしまっていたのです。
ろうの人の方は、
「いつもちゃんと話せるんだから、人前でも話せるだろう」
と思ったかもしれませんが、
ろうの人とは経験が違ったのです。
それくらい、ろうの人というのは、
豊かに手話を使いこなしているということもできるかもしれません。

ろうの人は、その時初めて、
自分が人前で公式に使っていた手話と、
個人的な会話の場面で使っていた手話が、
違うということに気付いたようでした。
その時から、その方は、
通訳者を育成するときの方法を、
さらに工夫するようになったということです。
すごいですね。

さて、そんなわけで、
通訳者を目指す、多くのみなさん、
日頃、ろうの人とと少人数で話す手話、
身近な場面で行う対面手話と、
大勢の方の前で行う手話通訳では、
表現の仕方や、間も、当然違ってきます。汗
舞台通訳となれば、なおのこと、
大きくはっきり、誰にでもわかる間や単語で、
表現することが必要になってくると思います。

わかりにくいなと思ったあなたは、
ぜひ、自分の日本語に立ち返ってみてください。
あなたは、家族や、親しい友達と話す時と、
会社の会議の時、
はたまた何かの必要があって、資料などを使って人前でプレゼンするとき、
いつもと同じ言葉遣い、同じ声の大きさで、話しているでしょうか?
舞台通訳が苦手だな~と感じている方は、
まず、ここから整理してみてください。

あとは、現場によって、いろんな条件も関わってきますので、
細かい答えは、その場によって違うと思います。
どうぞ、身の回りの通訳仲間のみなさんと、
ディスカッションしてみてください。
より良い方法が、見つかるのではないでしょうか?
各地のみなさん、みんなで、力を合わせて、
素敵な手話の輪を広げていきましょう。

いつも、このブログに来てくださって、
ありがとうございます。
感謝。

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これは、事務所のはっちゃんの通訳姿です。(手話通訳士)