聞こえない人のいることが目立たないよう手話通訳者の位置を決める?
少し前のことですが、
舞台の講演会で、手話通訳を付ける位置について、
聞こえない方と、主催者側の考えにずれがあり、
混乱したことがあります。
私たちは、主催者から依頼があり、通訳現場に伺ったのですが、
その、通訳者の立つ位置が問題になりました。
主催者側は、
「聞こえない人が見えるのなら、それは少数だから、
その方たちがいらっしゃるのが目立つと、参加しづらいだろう」と考え、
事前に舞台につける手話通訳者の位置を、設定していたのです。
ここであなたなら、どう考えるでしょうか?
A 手話通訳者は、当然、講演者の横に立った方がよい。
そのほうが、講演者本人と手話通訳が近く、
講演者の表情も見ながら、通訳された内容と見比べることができて、
通訳の質が上がる。
聴こえない人が目立つ目立たないにかかわらず、
手話通訳者は、この位置にしたほうが良い!
B 舞台の上の真ん中に手話通訳者が立つと、
当然その通訳者がすべての人の目に入る。
聞こえない人がひっそり見るには目立ちすぎるので、
手話通訳者は、舞台の下の端に立ち、その前を手話通訳席として、
手話を見る必要のある人だけが、その席に座ったほうが良い。
実は、これ
「聞こえない人が目立たないよう、安心して手話通訳を見るため」の答えとしては、
どちらも、間違えています。
え?どういうことだろう?
そう思う方もいるかもしれません。
まず、先にBについてお話ししましょう。
一見、聞こえない人が目立たないようにするためには、
Bの方法が適切だと考える人が多いと思うのですが、
これは、ちょっと違っています。
今回、この通訳位置を主催者側が設置し、
そこに、来場した聞こえない方は、大激怒!!汗
「これじゃ、ここに聞こえない人がいますよ~!
と、会場のすべての人に伝えているようなもんだ!!
しかも、内容がつまらなくなって、居眠りでもしようもんなら、
” あそこの通訳席にいる聞こえない人、
通訳があるのに、全然見てないじゃん。寝てるよ!”
とか、言われかねない。
こんな、目立った席に座るなんて!!悲しい。」
ご本人が、即座にこう言いました。
そうなんです!!
この席の設置は、1000人規模の講演会であっても、
少数の聞こえない人が、逆にそこにいるとはっきりわかってしまいます。
つまり、ある意味「聞こえない人がいるのが目立つ」状況を生み出すのです。
その理由は、聞こえない方の発言で明らかなので、
それを受け止めていただくとして、
この通訳席の設置は、
聞こえない人にとって、決して心地の良い場合ばかりでないことが、
常々指摘されています。
すると?
通訳の立ち位置として、
今回適切なのは、Aということなのですが、
私は、先ほど、この答えも、間違いだ!と、言いました。
あれれ???
南さん何を言っているの???
とお思いでしょうか?笑
実は、Aの通訳の位置こそが、
聴こえない人を目立たなくさせる方法であり、
「聴こえない人が目立つ目立たないにかかわらず」と書いたことが、
ちょっと、答えとしてズレているのです。笑
舞台の講演者の横に手話通訳者がいることは、通訳の質を上げるために良い
ということについては、先ほど書いた通りですが、
では、なぜ、これで聞こえない人が目立たなくなるのでしょうか?
確かに、この位置に通訳者がいるということは、
会場に来た全ての人に手話通訳が目に入ることとなり、
『この講演会に聞こえない人が見に来る可能性があること』が伝わってしまいます。
しかし、これは「手話通訳者のいることが目立っている」だけです。
実は、これこそが「聞こえない人がどこにいるかわからなくする」方法でもあるのです。
舞台の講演者の横は、講演者本人同様、会場のどの位置からもよく見え、
聞こえない人が、たくさんの人の中の、どの席を選ぼうと情報を得ることができます。
これで、聞こえない人は、自分が聞こえないことを意識せず、好きな席に座り、
つまらなくなれば、一般の聞こえる方と同じように居眠りもでき(笑)、
かといって、見たいときには、ちゃんと情報もキャッチでき、自由な立場を得られます。
これが、聞こえない方の多くが望んでいる、
「自分たちも目立たず一般の人と一緒に、安心して情報を得られる状況」
と言える、良い例なのです。
舞台の講演者の横に手話通訳者が立つことは、
聞こえない人がどこにいるかが、ほかのお客さんたちからはわかりにくくなり、
その分聞こえない人の心を自由にし、
かつ欲しい情報を手に入れる権利も保障されたおすすめの方法です。
だからこそ、主催者は、
「聞こえない人が目立たないようにしたい」と考えるなら、
講演者の横に、手話通訳者を立たせた方がよい! というわけです。
舞台には、様々な演出があり、
何をどう見せるかの判断は場合・場面によって変わります。
ただ、聞こえない人と手話通訳について考えた場合、
こうした考えもあるということは、
多くの方に知っていただきたいと思います。
日ごろ、手話通訳活動をされている皆さん、
こうしたことは、私たちも積極的に、イベント主催者に伝えていきたいですね。
またさらに、ご自身の企業のバリアフリー活動をお考えのみなさん、
ぜひ、今後の参考にされてください。
いつも、長文読んでくださって、ありがとうございます!!