FMサウンズスタジオ
東京虎ノ門にある
FMサウンズという 東京FM系のラジオ制作会社の
古いスタジオが、
都市開発計画に伴って、解体・移転が決まりました。
ここは、私が大学を卒業してすぐに就職した会社で、
これは、南にも教えてやったほうがいいだろうと、
当時のラジオ仲間が連絡をくれました。
今週、お別れ会が開かれるそうですが、
私は仕事でいけないことが判明、
先週、急いでスタジオを見に行きました。
およそ40年の歴史を閉じるこのスタジオの壁には、
長年このスタジオを使ってこられた、
タレントやアーティスト、パーソナリティの方々の、
お別れのサインも、いっぱいありました。
歌手の森山良子さんや、まんが家の弘兼憲史さん、
鈴木雅之さんや、声優の山寺宏一さん、レイチェル・チャンさんや、
なんと料理家の服部幸應さんや、モデルの押切もえさん、
このほか、DJ・KOOさん、今井美樹さんなど、
たくさんの方の言葉と写真が並び、
こりゃ本当に、お別れなんだなと、
さらに実感が湧いてきました。
私がいた頃も、
久保田利伸さんや、大江千里さんや、鷲尾いさ子ちゃんや、
松任谷正隆さんやゆーみんや、郷ひろみさんや、
いろんな方で賑わっていた、スタジオのロビーですが、
改めて、この空間に入ると、
当時のことが、そのまま浮かんできて、人の動きまで見えるようでした。
まさにここが、
いまの私の、手話パフォーマーとコーディネーターの道に続く、
第一歩となった場所。
ここで、アーティストの皆さんの圧倒されるようなオーラと、
ごく普通の笑い声と、真剣に語らい合う眼差しを浴びて、
ディレクターや広告代理店の方の、熱い想いを聞いて、
私もここにいる!と、実感した場所です。
この場所なくして、いまの私はありません。
このロビーの奥へ入っていくと、
小さなスタジオが並んでいて、
それぞれの1室でみんなが作ってきた番組こそが、
東京タワーから電波となって放たれ、
人の耳と心に届いたのだと、
あなたが夜に聞いた、
パーソナリティの声と、流れた美しい音楽は、
この1室の調整卓のボタンを押したディレクターと、
そこに思いを乗せた話し手と、
それを大好きだと思ったスタッフたちの手によって作られたのだと。
こだわりが ぶつかり合って、
パーソナリティと、ディレクターが怒鳴りあっていたあの日も、
大事な取材を寝坊してすっぽかしたADが叱られていたあの日も、
ギリギリの制作で、朝来たら、昨日と同じディレクターが、
同じ姿勢で同じ編集室にいたことも、
パーソナリティの誕生日で、録音の合間に届けられた花やケーキも、
待ち時間にロビーで話していた、有名人のなんとも楽しそうな、
テレビでは見られないあの顔も、バカ話も・・・
たくさんの溢れる笑顔や本気が、ここに詰まっていることを。
私たちは、忘れないのだなと、
なんだか古いスタジオの中で、青春の卒業式のような気持ちになりました。
私にとって、変わったのは、
当時2〜3年後輩だった内田くんが、とても偉くなって、
当時の私の部長のような存在になっていて、
「やあ、いらっしゃい。」と笑顔で声をかけてくれたことと、
その頃の私と同じ年くらいの若いエンジニアの方が、
「あなたが、噂の南さんですか?」と、言ってくれたこと。
そこで初めて、
あの頃私は20代で、いまはすごく大人になったのだと、
スタジオに飾ってもらおうと思って持っていった、
ささやかな花を手渡しながら、思いました。
私は、FMサウンズに入り、
本当に素晴らしい放送の世界に招き入れてもらいました。
そして、ここまで頑張ってきて、本当に良かったと、
当時の仲間に呼んでもらって、改めて感じました。
いまの私がいるのは、
このスタジオがあったからです。
FMサウンズと、当時の仲間に心から感謝します。
ありがとう。
さようならは言いません。
ここは、私の始まりであり、決して消えたりはしないとわかったことが、
今回の再会の喜びです。
私は、ここにいます。
当時の先輩方や仲間たちの、溢れるような思いは、
私がその志の証人です。
南 瑠霞