「手話通訳の立ち位置は演者(話者)の近くに」~シンポジウムなどの手話通訳者の配置を成功させるために
最近、オリンピック・パラリンピックなどにまつわるイベントが増え、舞台等に、手話通訳者を設置したいと考える主催者の方が増えました。
舞台行事に手話通訳者をつけるという試みは、聞こえない方も、そこに参加してほしいという願いの込められた、まさに、共生の思いに基づいたものであり、社会は、これまでとは大きく変わり、今、新しい時代へと向かう、熱さ暖かさがみなぎっています。
その中で、私たちは、さらに、主催者・クライアントの皆様とともに、より良い手話通訳の設置方法について、共有していければと考えております。
今回は、シンポジウムなどの場面での、一つの理想的状態をご紹介します。
手話通訳を設置するということは、ある意味、今までとは、舞台の演出が変わる面もありますので、演出・舞台監督の皆様にも、ご一読いただけることをお願いいたします。
重要なポイントは、「手話は、目で見る言語」だという点です。
これを、第一にイメージすることで、手話通訳を配置する意味(あり方)が運営スタッフ全員に行きわたり、聞こえない方の会場参加の機会がより豊かなものになります。
それでは、舞台通訳の一例を、図面とともに見ていきましょう。
手話通訳を設置したいと試みる皆様が、第一にイメージするのは、司会者の横に立つ、通訳位置かと思います。
これには、大変良い面とともに、改善余地のある部分があります。
今回は、これがこの記事のテーマです。
4つのポイントをまとめてまいります。
① 司会者の横を手話通訳の定位置と定め、ここに照明が準備されて、手話通訳者が常にここに入る方法。これは、司会者の横で通訳をすることになるので、全体の進行がわかりやすい良い場所の一つになります。
ところが、これを、そのまま全ての場面に当てはめると、次のようなことが起きます。
② 中央の演壇で、主賓等がごあいさつや基調講演をされる場合、舞台の端に通訳者がいると、中央の人物と通訳者が離れてしまい、聞こえない方は話の内容を理解するために、通訳者から目を離すことができません。結果として、聞こえない方は、講演者のお顔をあまり見ることができない可能性が高くなります。
③ また、登壇者がレポート発表する際、舞台上手(かみて/客席から向かって右)に位置し、中央にスクリーンを設置して解説するなどの場合は、さらに通訳者との距離が離れます。
こうした時、通訳者が反対の端にいては、聞こえない人はどこに目をやるべきか迷いが生じます。
内容を注視するためには、どうしても通訳者の手話を見続ける必要があり、スクリーンと通訳者を見るのが精一杯で、発表者は目に入りづらく、聞こえない方から見ると、手話通訳者が発表者かのような印象になってしまうケースも。
④ さらに混乱するのがこの場面。
パネルディスカッションのシーンで、通訳者が舞台端にいると、次々発言される意見が、誰のものかわかりづらくなり、1人の通訳者ではまかないきれない場合も出てきます。
このように、一定の場所のみを指定した手話通訳者の立ち位置は、聞こえない方にとって必ずしもわかりやすい状態ではないということが、おわかりいただけると思います。
手話は「目で見る言葉」であり、手話通訳者が演者・話者の近くに立つことで、聞こえない方は話者ご本人の顔や動きや表情と、話の内容を同時にとらえられるチャンスが広がります。
理想の状態は、例えば、以下のようになります。
「中央登壇者の手話通訳は中央に」
中央の演台の講演者の近くに手話通訳者を配置することで、聞こえない方が、話し手本人と手話の両方を見ることが可能に。話し手の表情なども確認でき、話題について行きやすくなります。
「舞台端での発表・発言は、そのそばに手話通訳者を」
舞台の発表者の近くに手話通訳者が立つことで、聞こえない方にとって発表者も目に入り、レポート内容がよりわかりやすく伝わります。
「大勢の方が発言する場合、手話通訳者はその人の後ろに回り込む」
パネルディスカッションなどでは座長(コーディネーター)と、パネラーの通訳者を分け、通訳者はパネラーの発言ごとにご本人の後ろ近くに回り込むことをお勧めします。これで誰が何を発言しているか、一目でわかりやすくなります。
以上、いくつかの場面別に、手話通訳者の立ち位置の実例をご紹介しました。
「手話通訳の立ち位置は演者(話者)の近くが理想」。
私たちは、こうした点も、主催者・クライアントの皆さんと共有し、聞こえない方にとって、より良い手話通訳環境を目指したいと考えます。
もちろん、立ち位置や舞台上の設置は、その日その場の様々な兼ね合いにより、条件も大きく異なり、これが唯一の正解ではありませんが、あなたが主催するシンポジウムなどのイベントで「聞こえない方と手話通訳について配慮したい」と考えた場合、より良い舞台を成功させるための、一つの重要な手掛かりとなるかと思います。
実は、今回、この案件を、本番1時間前に素早く対応し、すべて解決して通訳者を理想的な条件で動かせていただいた現場がございました。皆様のおかげで、良い通訳環境が確保でき、聞こえない方にとって見やすい通訳が設置できたという良き一例となり、大変感謝しております。
それぞれの立場は違えども「思い」や「目標」を共有できれば、様々な難点も周りの方々ととともに乗り越えていけるという実感をいただき、心にしみました。
今後とも、皆様とともに一歩ずつ、”みんなが快適になれる環境づくり”について思いを寄せていければと思います。
手話あいらんど 代表 南 瑠霞(手話通訳士)
<情報提供:手話あいらんど/南 瑠霞>
※この情報は、シェア・転載・転用は自由です。ただし、出典元を明らかにしてください。