手話通訳のご依頼は2人体制で〜通訳の質を大事にすることは聞こえない方への心づかいです
このところ、
「聞こえない方が見えるかどうかわかりません。
念のため1人だけ手話通訳の派遣をお願いします。」
「2時間ですから、お一人で手話通訳は可能ですよね。」
と言った、お問い合わせが、増えています。
たぶん、各地の手話通訳者の方が、
このような依頼を受けて、戸惑われているかと思います。
なぜ、各地で・・・と、私共が気づくかといえば、
もちろん、通訳仲間の互いの話からも知ることになるのですが、
実は、通訳をお願いしたいと、ご連絡くださる方自らが、
「別のところでも、2人体制でと言われたのですが、
おたくでも、同じですか?
できれば、1人できていただきたいのです。
なぜ、通訳者は2人体制なのでしょう?」
と言うお問い合わせが、増えてきているからです。
お一人だけで・・とご依頼下さる方は、
「そんなに大げさな状態できていただいても、
聞こえない方は1人か2人。そこまでして準備することではない。」
と思っておられる方もいます。
また、
「イベントによっては、せっかく準備して通訳者に来てもらっても、
万一にも、聞こえない方がお越しにならないかもしれない。
そうすれば、うちの予算はもとより、来ていただいた通訳者に申し訳ない。」
「通訳者を呼ぶには、それなりの費用がかかる。
2人にきてもらうと、人件費も交通費も2倍かかるので、予算を抑えたい」
と言う方もおられます。
しかし・・・
これらを押して、やはり私共も、
「通訳者は2人からのチーム体制で」とお伝えしています。
それは、通訳の質の低下が、
最終的に聞こえない方にとってマイナスにつながるからです。
基本的に、英語など他の通訳も含め、現在国内外では、
同時通訳における集中力と質を維持できる一回の継続時間は、
15分程度だとされています。
およそ2時間の内容では、
2人が組んで、15分前後の交代で行なうのが、
どのような言語通訳でも、適切と言われているのです。
この時間管理は、通訳者が精神疲労を受け、
必要以上に、体を壊してしまわないためでもあります。
通訳のための思考回路は、普段自分が自由に話しているときと違い、
二つの言語の間を行き来し、大きな集中力が必要です。
また、手話では特に、腕や表情も含め、上半身の筋肉を使っての通訳が多く、
かつて、通訳者の間で、
「頸肩腕症(けいけんわんしょう)」と呼ばれる、
異常な肩こりや、首や腕の痛みを激しく訴える症状が多発した時代があります。
これは、ちょっとだけだから頑張れると思った通訳者が、
結果として毎日、何時間も手話通訳し続けたために、起きてしまった症状で、
今でも、通訳者が最も注意しなければならない病気の一つとされています。
「通訳がうまい」人を見れば、
誰もが「その人なら簡単にできる」から、
どんどん頼んで良い。と軽く考えてしまいがちになります。
また、本人も「簡単にできる」だけに、
「大したことはしていない」「私なら、大丈夫」と、
思い込んで通訳してしまい、「知らない間に重大な疲労を抱え込み」、
最終的に、それが体の不調となって現れてしまうというもので、
一時期、この「頸肩腕症」は、
手話通訳業界では大きな社会問題となりました。
通訳者の健康を守るためにも、
この時間管理は、大切なものになります。
また、およそ15分とされる通訳時間を超え、
集中力の低下した通訳者の伝える内容は、質が下がり、
適切な内容が、聞こえない方に届けられない可能性が高くなってしまいます。
手話通訳者は「2人1組」といわれるのには、
こうした背景があるんですね。
「聞こえない方を会場にお呼びして歓迎したい!」と心を込めてお考えの、
主催者・クライアントの皆様には、
これらの点についても、私たちと共に、ご一考いただければ、
それは、主催者の皆様にとっても、聞こえない方々にとっても、
より良いイベントにつながるものと思います。
この考えは、全ての場合における唯一の正解ではありません。
様々な条件により、必要な体制も変わってきますが、
ぜひ、あなたのイベントの成功のため、参考にされてください。
ちなみに、最初に書かせていただいたお問合わせへの簡単なお返事は以下のようになります。
私どもは、主催者のあなたと、会場に訪れる聞こえない方の間で、より良いコミュニケーションが成立するよう、心からお手伝いしたいと考えております。私たちは、主催者のあなたのパートナーとなり、あなたの心を届けるためにこそ、聞こえない方をお迎えできる快適な環境を共に整えたいと願っています。
Q 「そんなに大げさな状態できていただいても、聞こえない方は1人か2人。そこまでして準備することではない。」
A 「手話通訳者は、一つの話題を通訳する場合、聞こえない方が、お1人でも100人でも、同じ通訳をご覧いただくことになり、手配の手間や通訳者の負担は同じです。聞こえない方の人数規模には、あまり関係がありません。」
Q 「イベントによっては、せっかく準備して通訳者に来てもらっても、万一にも、聞こえない方がお越しにならないかもしれない。そうすれば、うちの予算はもとより、来ていただいた通訳者に申し訳ない。」
A 「その場合でも、もし聞こえない方がお越しになれば、1人で長時間の通訳はまかないきれません。万一に備えても、準備の仕方は同じです。また、逆にその場合、聞こえない方がおられなくても、最初から手話通訳を会場に設置しておくという方法もあります。そうすれば『このイベントには手話通訳があるんだ』と周知され、次回から聞こえない方が参加しやすい雰囲気が作れます。」
Q「通訳者を呼ぶには、それなりの費用がかかる。2人にきてもらうと、人件費も交通費も2倍かかるので、予算を抑えたい。」
A 「ご予算は、それぞれのケースでご相談ください。笑 なお、イベントに通訳者をつける主旨を改めてお考えください。『聞こえない方に来ていただきたい』と願うあなたのお考えに沿った手配方法をご検討ください。」
<情報提供:手話あいらんど/南 瑠霞>
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