手話の場合『通訳者の位置は隣ではありません』
今回は、聞こえない方が、会社の面談や仕事環境のインタビューに呼ばれた時、または就職案内におもむいた際。また、学校の保護者会などで、通訳を同行した場合の、『聞こえるアナタ』の手話通訳についての対応方法について、ご紹介します。
あなたは、会社関係者かもしれませんし、学校の先生かもしれませんし、医療や福祉・行政関係の担当者などかもしれません。
私たち手話通訳者が、聞こえない方とともに手話通訳に同行した際のケースです。
手話通訳者が通訳に伺った際、多くの場合、お迎えくださる聞こえる方(会社・学校・行政関係者等)が、図1のように、席を準備して待ってくださっています。
多くの方が、テレビなどでもよく見る、音声の言語通訳をイメージしておられ、通訳者は、ご本人の横!又は近くに!と、思っておられるからだと思います。
でも、私たちは、このような際、必ず、お相手の方に、席の配置を変えていただくようお願いしています。
今回の投稿は、この席位置がテーマです。
(図1)
「聞こえない方の隣に手話通訳者が座る」
図1のような通訳位置は、実は、手話ではあまり向いていません。
この状態は、手話通訳者が、聞こえない方の手話を真横から見て読み取ることになり、見づらいこと。
また、聞こえる方の音声によるお話も、手話通訳者が聞こえない方の真横で手話にして伝えることになり、聞こえない方ご本人にとって、この位置が見やすい方向ではないからです。
この、通訳者の位置のとらえ方の違いは、なぜ起こるのかというと、一般に「通訳」ときいて、皆さんが思い浮かべるのが英語でもその他の言語でも、基本的に「耳で聞きくことば」の通訳シーンだからかと思います。多くの方が「通訳」という言葉を聞くと反射的に「あの『横でメモを取りながらうんうんと話を聞いて、内容を相手の言語に訳して話してくれる方』が来るわけだから『お隣に座っていただこう』」と考えてしまうのです。
一方、手話は「目で見る言語」でありその通訳は、「見えていなくても(または見ていなくても)聞こえる」音声言語とは違い、「目で見える形(視覚でとらえられる位置)で表出されなければならない」という点が、一般の方にはピンとこないのです。
では、聞こえない方と手話通訳者を介して、お話をする場合、それぞれの方の位置は、どのような関係になっているのが適切なのでしょうか?
改めて、「目で見る言葉」=『手話』で行う通訳の、対面会話での、理想的な席位置について、その例をご紹介します。
(図2)
「聞こえない方と聞こえる方の双方が見える中間の位置に手話通訳者が座る」
図2は、手話通訳者の理想的な位置の例の一つとなります。
通訳者が、聞こえない方と、聞こえる方の間の位置に入り、どの立場の方からも互いの表情や手話がよく見えます。
この例で良い点は、
〇 手話通訳者も、聞こえない方の手話が見えやすく、適切な読み取り通訳がしやすくなる。
〇 手話通訳者が、聞こえる方の音声を手話に変えて伝える場合も、聞こえない方にとって、手話も聞こえる方ご本人の表情なども、よく見える位置になる。
〇 手話通訳者が、互いの中間位置にいるため、中立的印象が保たれる。
などがあります。
(図3)
「聞こえるアナタの隣に手話通訳者が座る」
図3は、最初の図1とは反対に、聞こえる方の横に手話通訳者が配されています。
これを見ると、なんで通訳者が聞こえる人の側にいるの?と、違和感を感じる方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、これは、目で見る言語としては、良い通訳位置の一つになります。
この位置関係によって、
〇 音声の話し手と手話通訳が近くなり、聞こえない方からは、手話で伝えられる通訳の内容と、話す本人の表情や話の間(ま)が同時に見られ、意味合いや雰囲気がつかみやすくなる。
〇 聞こえる方にとっても、目の前の聞こえない方の手話を見ながら、読み取り通訳の音声が耳元から聞こえてくることになるので、話が自然に頭に入ってくる。(通訳者が目に入らない)
という、良い点が生みだされます。
ただ、この場合気になるのは、
〇 聞こえる方の側に通訳者がいることで、聞こえない方にとって、圧迫感が生じる可能性がある。
ということです。
そこで、この場合、私たちは、図4のような配置を提案します。
(図4)
「聞こえない方と聞こえる方が向かい合う位置に座り、手話通訳者が少し外した位置に座る」
図3と図4は、似ていますが、よく見ていただくと、座席の位置と意味合いが違っているのが分かります。
図3では、聞こえない方の向かいに、聞こえる方と通訳者が二人で正面に座る形になっていますが、図4では、聞こえない方の正面は、聞こえる方一人。その横の端に、手話通訳者が座っています。
この位置であれば、聞こえない方からのパッと見の印象も、話し相手は聞こえる方。その横に通訳者がいる。と感じられ、圧迫感が軽減されます。
ちょっとした位置の違いですが、こうした配慮で、互いがよりリラックスして話せる環境が整います。
長くなりましたが、私たちは、最初の図1のようなお席のご案内をいただいたときは、お気遣いに感謝した上丁重にお断りし(笑)、図2又は図4の状態をご提案しています。
なお、今回ご紹介した例は、すべてのケースの唯一の正解ではありません。こうした環境は、場面・場所・時によりさまざまに変化します。
「手話は目で見る言葉」。関わる皆さん同士が互いにその特徴を理解することで、聞こえない方と手話通訳者の位置も、自然と良き場所が探り出せるのではないでしょうか?
<情報提供:手話あいらんど/南 瑠霞>
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