耳栓をして街を歩く
先週と今週の、神奈川県の短大のもみじです。
赤くなりました!!
毎年この時期、短大の講師をさせていただき、
とてもうれしく思っています。
秋から冬に向かう葉の移り変わりがみごとで、
心が洗われます。

手話を学んでしばらくたったこのタイミングで、
学生たちは、みんな耳栓を付けて、学校周辺を歩く体験をします。
耳栓を付けても「聞こえなく」なるわけではありません。
日頃より雑音や小さな音が聞こえなくなるだけです。
でも、これだけでも実は、電気自動車の音や、
自転車の気配などは消えてしまいます。
そして、この授業で大事なことは、
むしろ「音声言語を互いに一切使わず」
「身振り」「筆談」「学んで話せる範囲の手話」を使って話すという点です。
これらの約束をして、グループごとに地図を見ながら、
オリエンテーリングのように、街を歩いていくのです。
途中、自動販売機でみんなが一番好きな飲み物を決めて帰って来てもらいますが、
もちろんこの時も、音声による会話は禁止。笑
みんなの意見を、声を使わずにまとめなければいけません。
帰ってくると、学生たちは、
「話せないから、パッと思いついたくだらないことを言うのをやめた」
「先に行った人を呼び戻すのに、走ってそこまでいかなければならなかった」
「道に迷ったとき、なかなか相談ができなかった。」
「自販機で、一人ずつ好きなものを指さし、あとで合計した。」
「うちのグループは、せーので、みんなで指さしたよ。」
「あ、その手があったか!笑」
等、様々な意見や感想が出ます。
教室で、耳栓を一斉に外し、聞こえてきた音をメモすると、
「空調」「誰かの咳」「鼻をすする音」
「ペンで文字を書く音」「机などのきしむ音」
「外の車」「飛行機」「廊下を走る人」
「男子の声」「誰かがトイレの扉を開けた音」・・・
など、耳栓をしていた時には気づかなかった様々な音を、
教えてくれました。
「まわりがみんな聞こえる人で、自分だけ聞こえなければ、
パッと思いついたことを言っても、
その場とズレたことをいうかもしれないから、黙っている。
伝え合うにも、周りに面倒をかけるし。」
「聞こえない人同士で山に登った時、誰かが先に行くと呼び戻しづらい。笑」
「聞こえない人のいる場での話し合いには、工夫が必要。」
などなど・・・
これらは、日常私たちが、聞こえない人から聞くあるある話そのもの。
耳栓をして、音声会話を禁止することで、
聞こえる私たちも、その状況に少し触れることができます。
耳栓を外して聞こえてきた音こそ、私たちがいつも聞いている音。
教室の後ろの席から咳やくしゃみが聞こえてきたら
「誰か具合が悪いのかも」と思うし、
廊下の人や外の車は、見えてないのに、移動していく方向や速さもわかる。
人の声からは、男女や、2~3人かもっと多いか、
大人の声か子供の声かも判断でき、
車の音から、大型車か乗用車か、またはバイクか、
そんなことまで想像できる。
これが、聞こえるということ。
ちょっとした体験からでも、私たちは、
聞こえることと聞こえないことの違いを、
少し覗くことができる。
そして、その違いを知れば、
自分の側からも、どう乗り越えていけるかを、
考えるヒントが見つかる。
短大で学生たちが、こうしたことを楽しく体験し、
様々な人がいることに気づくチャンスが広がればと願い、
毎年こうした授業を続けています。
今日も、東京・神奈川は快晴です。