手話通訳士の資格の重要性


首都圏を中心とする手話環境について、ちょっとメモしておきましょう。

今、官公庁の映像等、公の現場で求められている手話通訳者は、厚生労働大臣公認「手話通訳士」でなければ、役割を果たしづらい状況へと変わってきています。
手話言語条例も全国に爆発的に広がる中、テレビ等にも、一定の割合で手話通訳放送が取り入れられ、緊急ニュースや首相官邸からの会見、天気予報などにも、手話通訳が登場する場面が広がっています。
各地でも、官公庁主催のイベントやオリパラ関連行事、また、警察庁や内閣府・厚生労働省などが管轄する各機関の情報映像等に、手話通訳が組み込まれるケースが大幅に増えてきました。

このところ、そうした映像を手がける様々な制作会社・企画会社から 手話通訳の依頼をいただく際、これまではなかった問い合わせや確認が増えています。それは、「来ていただく通訳者は、手話通訳士の資格を持った方であること。また、内容はその方だけではなく、派遣団体または、別の通訳士が二重にチェックし、間違いがないと保証された状態で、完成されなければならない」というものです。

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もちろんこれ、ナチュラルな話で、そもそも専門家でない人(または必要な能力に満たない人)が通訳し、間違った(または不適切な)通訳のついた映像が流れれば、映像を配信した主催者の責任問題になりますし、そんな情報を見せられれば、聞こえない人は大迷惑をこうむってしまいます。こうしたことに、良心を持って取り組み、良質で心あるコンテンツを配信したいと願うのは、誰にとっても当然の思いの証です。

というわけで、現在良識ある手話通訳者 及び 手話通訳派遣団体であれば、こうした公的な通訳の依頼には、一般に手話通訳士の資格のある人、またはそれに準じた人(この場合現場の責任者に、この人以外に手話通訳士の有資格者も必ず配置されている)状態で、通訳者が派遣されているのが常識です。
(各県などであれば、手話通訳士の資格がなくても、その県が責任持って許可した能力のある登録通訳者が担当していることが通例です。)

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では、今なぜ、こうした条件付けが、新たに多くの方々の口に登ることとなったのかと言う経緯について、振り返ってみたいと、今日は思いました。

つまり!!それは、とてもいいにくいことですが!!
今まで(ほんの1〜2年前まで)は 社会の常識がそうじゃなかった!!!と言うことです。大汗

私も、様々な映像や、舞台などなどを、拝見するにあたり、心苦しく思うものは、なんどもおめにかかっています。

かつて、私のブログにも紹介しましたが、「そんなに手話がプロ級でなくてもいいので、少し手話を学んだ方に、イベントの通訳に来ていただきたい」と言う依頼は、いまでも後をたちません。
その方々は、たいてい「内容は簡単なので、大丈夫です。」とおっしゃいます。
ところが、もともと手話についてあまりご存知ない方には、内容の何が簡単なのかについて、その根拠など、わからない場合がほとんどです。伝えたい内容が簡単であることと、それを適切に通訳できるかどうかは別物だと言うことが、基本的に知られていないのです。
ここで、迷惑するのは、主催者でも通訳者でもなく、そのような通訳を受ける聞こえない方だと言うことにまで、思いが至っていない。

こうした場合私はたいてい、相手の方にお尋ねします。
「例えば海外の方がお客様として見える際に、英語でも、『そんなに英語がペラペラでなくてもいいので、少し学んだ方』に、通訳を依頼されますか?」
ところが、こう質問されると、「いいえ」とおっしゃる方がほとんどです。汗

これは、多くの人が中学高校時代、長く英語を学び、通訳のあり方がどういうものかイメージができているからかもしれません。
中学・高校と6年も英語を学んだ私たち(今では小学生も学んでいる)は、語学を「ちょっと学んだ程度」ではありません。しかもその頻度は、手話のように週に一度ではない場合がほとんどです。一般の学校に通った人なら、家で予習復習を一切しなくても!!最低でも週2〜3回は、基本的に学校で英語に触れていたはずです。
手話の発想で言えば、そんな私たちなら、英語の通訳は、「誰でも気軽にできる」ことになります。
あなたは、とっさに、「とても簡単な日本語」を、英語で海外の方に通訳できるでしょうか?
(この話の場合、非常に優秀で学校の授業だけで通訳ができるようになった方は、対象外とさせてください。笑 )

実は、手話においても、これは同じ。ちょっと学んだだけの人では、よほど向いていない限り、手話通訳はしづらい!!が、ナチュラルな答えかと思います。
にも関わらず!!「そんな状態の人に手話通訳を依頼する 不自然さ」について、まだまだ多くの人は理解していない!!と言うのが、私が肌で感じる現状です。

手話は、1つの文法を持つれっきとした言語。通訳には、能力が必要です。
また、日本語と語順の近い、音声対応で通訳するにしても、それはそれで、単語数が少ない人、とっさに手が動かない人には、通訳はとてもハードルの高いものとなります。

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あるとき、うちに、驚くような翻訳の依頼がありました。
「大きなイベントで、手話通訳を頼んだが、ろうの方にインタビューした際、どうも、適切なコメントが得られなかった。その映像は、すべてある。良き編集をして、イベントの楽しさを盛り上げたいが、ろうの方のおっしゃっている内容がわからないので、一旦、その映像の手話を、すべて日本語に起こしてほしい。」と言うものでした。
(私たちの元には、こうした、手話の検証の仕事が持ち込まれることも 時々あります。)

拝見してみると、映像では、明らかに手話通訳の方が、ろうの方の手話を読み落とし、ろうの方の言葉が、きちんと日本語にされていないようでした。その横で、ろうの方同士が「なんか、手話が通じないみたい。この通訳の人の言っていることわかる人いるかな?誰か呼んできたほうがいいんじゃない?」と、手話で話している様子まで しっかり映っています。大汗
通訳の方が、その場の様子を、ろうの方にも、取材している方にも、きちんと伝え切れていなかったのです。

ひとまず、この映像には、すべて、私たちがわかる限りの読み取りをつけて、お返ししました。ろうの方のコメントは後からではありますが、主催者にも伝わったことと思います。

ただこれは、まさに「ちょっと手話を勉強した人がイベントの通訳に呼ばれてしまった」例だということも、すぐにわかりました。
通訳をされていた方に悪意はなく、頑張っておられるのはわかりましたが、技術が追いついていなかったのです。もしかしたら、このような重要な通訳をするとは思ってもいなかったのかもしれません。
これは、通訳者の責任と言うよりも、主催者の通訳者の依頼の仕方が、明らかにずれてしまった例だったのです。
主催者の方には、そのことも正直にお伝えし、今後の通訳の依頼方法を検討していただけるようお願いをしました。
最初から、きちんとした通訳者を設置していれば、あとから、私共に余計な翻訳を依頼せずとも、良質な通訳が実現でき、余分な費用も発生しなかったわけですから。

このように混乱した現場をいくつか見れば、私の知らないところでも、同様のトラブルが少なからず発生してきていることは、想像できます。
そして、多くの主催者が、自分たちの手話通訳の依頼の仕方にも問題があると、理解し始めたことで、今ようやく、「手話通訳士と言う資格に着目し、内容にはダブルチェックが必要だ」と考えるようになった。そして、これがルールとなって社会に出回り始めたのだと、これまた多くの現場の様子から、私は肌で感じています。

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世の中は、厳しくなったのではありません。
本当の意味で「優しく」なり始めたのです。

イベントや映像に、手話が、なんのためについているか?
それは、主催者の、気遣いがあるところを見せるためのアリバイになってしまっては意味がありません。
聞こえない人がその通訳を利用している。だからみんなが大事にしたい。そう思えて初めて、社会が動くのだと、令和になっての大きな変化を、私は嬉しく感じています。

手話を知らない人も、そうした問題を理解して ともに良きものを作って行くために、良質の手話の持ち主としての証明となるものが「手話通訳士」の資格です。
一般の、舞台・映像の主催者・制作者は手話についてあまりご存知ない方も多いのは現実です。そういった方でも、安心して、通訳を任せられる共通の資格。それが「手話通訳士」。そう思えば、私たちも、その資格を大事に、できればそんな資格を持った人を多く育てたいと願うのも、自然な流れだと思います。
みんなで、頑張りましょう。