「手話指導の手順」〜 エンタメにも 暖かく「心ある」手話を!!
当たり前のことではありますが、エンタメであろうと、お笑いであろうと、手話をつけるからには「心あるものを」と願います。
ろうの友人が、とあるyoutube動画をスマホで、私に見せてくれました。
「これ、有名な方の後ろで、女優さんが、手話通役の役をしているんだけど、この手話、なんかおかしくてよくわからない。。。ヘタと言うのでなくて、位置関係とか文法とか、単語の表現とかが、ちょっとおかしな動き方をしてる。手話をしたいのはわかるけど、ちゃんとした表現になっていなくて、あまりに無表情で、ろう者をばかにして見える。これ、手話をつけてますっていうジョークなのかな? 以前、南アフリカの手話通役者が、本当は手を動かしていただけで、ちゃんとやってなかった・・・みたいな事件があったけど、これは、そういう風にしたかったわけでもないみたいなんだけど・・・どう思う?」
「・・・・」
どうやら、その人が調べてみると、指導者はおられるようで、その方のお手本動画を見て、役者さんが自分で真似て覚えた手話映像なんだとか。
ろうの友人がいうには、「昔、お笑いタレントが、中国語や韓国語の、語調の真似をして笑いを取り、中国人や韓国人がすごく不快だったという話を聞いたけど、これを見たら、ちょっとその気持ちがわかった。」とのこと、胸が痛みました。
(先日 打ち合わせで立ちよった原宿のとあるビル)
私たちが手話指導を承るときは・・・
◯ 最初に、手話に取り組む役者さんと、演出またはプロデューサーの方が、必ずろう者に会うこと。
◯ そのとき、通訳なしで、ろう者と どう通じ合えるかを、ご自分達で、筆談や身振りも交えながら、一生懸命話して、体験(体感)していただくこと。
◯ そのあと、自分たちの名前など簡単な手話も覚えて、手話を使うことを実感していただくこと。
◯ 聞こえない方の生活の様子や、手話の良いところなど楽しいお話もして・・・
◯ その後初めて、台本や歌詞に取りかかります。
◯また、台詞や歌詞は、一つ一つの日本語や文を、ご本人や監督がどういう意味合いで捉え どう表現したいかのニュアンスも相談しながら、翻訳。解釈ではもちろん、意見が食い違って、それを一致させるために、色々話し合って時間のかかることもあります。そのとき、役者さんが苦手そうな手の動きもチェックし、できれば、やりにくそうな表現は外して、別の手話に変えられないかも検討します。
◯ そこではじめて、役者さんのしっかりしたレッスンがはじまります。
◯ それで、ようやく登場するのが、「復習用」に、お手本映像を撮って、ご本人や監督達にお渡しするという作業。(お手本映像は、あくまで予習用ではなく、復習用です。よくわからない言葉を、自分だけで見て、勘違いして覚えて違和感のあるくせを身につけてしまうと後からでは なかなか治せません。)
◯ そのあと、必ず最低でも、1〜2回レッスンのお時間をいただいて
◯ 本番にも立ち会います。(本番で一緒に手話をチェックする人がいないと、うっかり間違えたり、反対の手が違った風に動いて知らない間に意味が変わってしまうこともあり、誰も気づかず、それが最終映像に使われてしまうことがあり、もっとも注意すべきことの一つなのです。)
何も、そこまで!!と思う方もおられるかもしれません。
ここまでやれば、手間も時間も 間違いなくかかります。
忙しい現場では、「急いでいるんだから、とにかく手話の映像だけください。そうしたら、自分たちが必ず、役者さんに正しく伝えます。ご本人も少し手話経験がありますから、なんとかします。」とおっしゃるチームがいるのも事実です。
でも、それ、本当にできるのでしょうか?汗
私達も、こうした場合、手話通役者同士で、相談のため、録画を送り合い、それで調整することはあります。でもそれは、相手も手話の文法や意味合い、文の句読点や、位置関係などがキチンとわかっていて、手話自体を「もとの意図どおり 読み取れる」ことが前提です。
私には、1〜2分を超えて通訳し続けるという 手話通役の役で、役者さんが、映像だけを見て手話を真似、本番をすることは、むずかしいように思われます。
それは、英語でいえば、ネイティブの人の録音と、元の日本語原稿だけを渡され、本番までに間違いなく覚えてこい!!と言われているのと同じように感じられるからです。
(『日本手話』というろう者の伝統的表現は、日本語とは文法も違うので、上の状況は、「このネイティブな英語のセリフが入った録音は翻訳されたものであり、もとの日本語で言うとこんな意味になってます。」と言う資料を渡されただけ。ということになります。また、声に合わせて単語を出していく 『音声対応手話』であっても、手話には位置関係や動かす方向、見るべき目の向きなどがあり、手の形だけを覚えて単語を連打しただけでは、手話文にはなりません。涙 それを見ただけで真似るのは、はっきり言って、例えば今まで、まあ小中高と体育の経験はあるけど、、という人が、いきなり「さあ、棒高跳の試合に出て一発で入賞を目指せ!」と言われている並に まさにハードルが高い!!・・・ように思います・・汗笑)
今このブログを読んでくださっている、ほとんどの方は、私も含め、おそらく小中学校の時から英語を習い、最低でも高校卒業まで、毎週2〜3度は英語の授業を受け、短い人でも6年程度、いまの若い人なら20歳になるまでに、8〜9年英語の経験のある人は多いと思います。
そのあなたに尋ねます!
あなたには、英語の経験があります。
あなたは、「英語のネイティブの人の録音と、もとの日本語原稿だけを渡されれば、4〜5日で長ゼリフを覚え、人前で話せるようになりますか?」大汗
答えは、相当の確率で「NO」だ!と思うのは私だけでしょうか?
自分の母語でない言葉をそれらしく、またある程度間違いなく話すのは、とてもむずかしい。単語一つ一つももちろん大切ですが、それ以上に単語の並びによっては音便もかかって発音(手話なら動き)や表現の長さも変わったり、区切りや抑揚も意味をあらわす重要なポイントになります。それを、役者さんが、録音や映像だけ見て、短期間で本番に耐えられるまでの状態にするのは、ちょっとムズカシク感じられます。
それをやってしまったら、結果が残念な状況になる確率は・・・おそらく・・とーっても!高い・・・!!
わたしはそう思います。本当にごめんなさい。
英語であれ、手話であれ、その言語を、役者さんが、いきなり録音や映像だけで それなりの状態にまで学習するのは、ちょっと難しく、適切な指導と勉強時間、また何より、それに向けての「スタッフの皆さんの理解」が、必要です。
この場合、語学的基準でいえば、日本語なまりのある英語、英語なまりのある日本語、もともと関東標準の日本語の方がチャレンジした関西弁や東北弁。汗笑
と言うものとも、意味が違います。
むしろ、そこまでできていたら、友人のろう者も、わざわざ私に動画を見せにはこなかったと思われます。
わたしは、見せてもらった映像に対して、ろうの友人が言っていることは、自然で素直な意見のように思いました。
ここから、ますます、手話を、エンターテイメントに取り入れたいと考える方は増えてくると思います。
どうぞ、心ある手話を!
手話は、聞こえない方の大事な言葉。
それを一緒に大事にしながら、素敵な作品づくりを 多くの方とともに させていただければと願っています。
特に、演出・制作チームの方々には、ご一考をお願いしたいです。
そこにつけた「手話が下手」なのと、「手話への取り組みがぞんざい」なのとは違うし、愛情も違ってくるように思います。
(これは、真面目一辺倒に言っているわけでもないし、お笑いにも手話はたくさんあっていい!!そう思う立場からの発言です。誤解のないよう!念のため。汗笑)
(先日いただいた 楽しい秋のおやつ!)
とはいうものの、以前と比べ、そうした方は 極たんに減り、多くのチームが、愛情を持って、私達の元に相談にきてくださっていることは、大きな変化と事実として、皆さんにはお伝えしておきますね。うれしいことです。
多くの方が、短い手話シーンであっても、きちんと ろう者と面談し取材し、改めて会話レッスンに通い、ドラマや映画、作品づくりに取り組んでくださっていること。また、「本番の立ちあいも、かならずお願いします。間違いをチェックする人がいませんから。」と言ってくださること。
そう言った方々の思いと姿勢には、多くの感動もいただいています。
ありがとうございます。
手話は、日本語や英語と同じように、それを母語とし、大事に思い、自分の心そのものとして使っておられる方がいる。
だからそれを見れば、心打たれるし、思いが伝わってくるのだと、毎回手話の仕事をさせてもらいながら、気持ちを暖かくさせていただいています。
もちろん、私たちも、偉そうなことをいう前に、そうした言葉への心を大事に忘れず、聞こえない方々と共に、頑張っていければと 今回のことは「大きな課題の一つ」にさせていただきたいと思います。
本当に、ありがとうございます。
(事務所の目の前、2019.10.13 昼の世田谷は青空です。)
連休中は、大きな台風もありました。
被災された皆様へ、心からお見舞い申し上げます。寒さがこないうちに、それぞれの町の復旧が進みますように。
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南 瑠霞