耳栓をしてディスカションする

1月中旬の、神奈川県の短大。中庭の大紅葉です。
葉を落とし、完全に冬の姿になりました。
コロナの緊急事態宣言で、今年度春の立ち上がりが2ヶ月遅れた学校では、後期の手話の講義も、毎週対面と配信で2コマずつの授業をこなしながら進めてきました。
私たち指導陣も、慣れない機器による配信や、多量になってしまったレポートの確認作業などで、とても大変な年度になりました。
同様に、日ごろ授業進行や詳細にタッチしない教務の方も、生配信に不具合があれば、自宅から授業を受ける学生たち、一人一人の対応に追われています。学生の状況によって家庭で授業が受信できる体制にある子もない子もいて、その環境の整備も学校サイドの重要な役割になります。
また、それ以前に、膨大なコマ数に登る各授業全てをコロナ対応に切り替えて、学生の半数ずつを対面と自宅で分ける入れ替え制や、短大初のシステムを使った配信の導入と、例年とは全く違う体制で臨まざるを得なかった今年度は、事務方の皆さんの仕事量もほぼ倍になってしまったと思われます。
大学全体が大混乱となる中(これは、私の通う短大だけではなく、全国の学校で起きている事態だと思います)、学生たちも授業を受け、昨年度とは全く違う状況で、学習に取り組んできました。
迷路のような道を、暗中模索で、行きつ戻りつしながら、みんなで進めてきた1年。
私の担当する学生たちも、まもなく卒業です。
授業も終盤、12月の終わりには、みんなで「耳栓をつけてディスカッションする」という課題に取り組み、1月になってそのレポートが上がってきました。
その授業では、最初は「耳栓をしても音が聞こえるじゃん。」「筆談で話し合えばいいんでしょ?」と気軽に考えていた人も、ほんの20分程度の体験で、「かなり疲れた」などの感想を教えてくれました。
これは、聞こえないという状況を、聞こえる学生たちにもおもんばかってもらえるよう、毎年取り組んでいる課題です。例年は、「耳栓をして、学校周辺を歩く」というオリエンテーリング形式で行っています。途中の目標物や障害をみんなで協力しあって、見つけたり解決したりして戻ってきてもらってうという内容です。
時間中には、話し合いや、ちょっと道に迷ったり、遠く離れてしまった人をどうやって呼び戻すかなどの、聞こえないことを乗り越えるための課題が盛り込まれています。
このセッションでは、全員「聞こえない」ことを体験し合うため、耳栓をつけることのほか、音声会話も禁止しています。
今回は、コロナ禍での予期せぬ密集や、トラブルを避けるため、「耳栓をしてのディスカッション」に切り替えて、行われました。
話し合いのテーマは、4つ。
①5〜6人のグループになり、自分たちのグループの名前を決める。
②その理由をまとめる
③グループのイメージカラーを決める。
④その色のいいところをいっぱいあげる。
一見、簡単そうですが、
耳栓をつけ、音声会話ができないとなると、話し合いには、それなりの工夫が必要になってきます。
今回も、若者たちは、体験後さまざまな感想をまとめてくれましたので、ご紹介します。
◯最初に、司会者のような人を決めたかったが、それを決めるために、どう切り出しどう決めればいいのか、話し合いの方法がわからない段階で、そこからつまづいた。
◯手話で少し話せる人同士が、どんどん話してしまい、わからない人が置いていかれ、寂しい思いをした。
◯筆談なら通じると思ったが、一人ずつ意見を書いている間、他のみんなが待つことになり、待ち時間にどうしたらいいかわからなかった。
◯普段なら、真面目な話し合いでも、ちょっとしたくだらないことをどんどん口から出すけど、それを伝えるのが大変だったし、面倒になりやめた。
◯耳に頼らないぶん、ずっと話している人の顔や、表情を読み取ろうとして、目を使った。疲れた。
◯みんながコロナを防ぐため、マスクをしていたが、その「マスクが邪魔」で、口元や表情が掴めなかった!!
◯今回は、テーマが決まっていたので、話しやすかった。しかし、もしなんのテーマも与えられていなかったら、どんな話をすればいいのかわからないし、目的のないグループで、耳栓・声なしになると、その会話方法もいい雰囲気作りも、手段や方向性がわからない。意味のない会話をしようとすればするほど、難しいと思われた。
◯ディスカッションが終わって、耳栓を取ると、空調や人の息遣いや、メモを取る音や、外の車や、廊下を歩く人の足音や話し声などいろんな音が聞こえてきた。耳栓をしても音が聞こえると思っていたが、それは実は一部で、こうした背景音は聞こえていなかったとわかったし、日頃自分たちがこんなにいろんな音を聞いていたことにも気づかなかった。
◯また、普段そういう音は、聞こえているのに無視していたし、にもかかわらず、廊下の人の様子は見えていないのに、一人なのか数人なのか、歩いて行く方向まで分かった。自分たちの耳の働きを改めて感じた。
ほんの20分程度の体験で、私もハッとさせられるような、感想がたくさん集まりました。
誰かが別の言葉で通じ合っていて、自分にわからなければ不安で焦る。筆談は時間がかかったり面倒に感じたりしてしまう場合もある。くだらない話こそが、やりづらい。マスクが邪魔。
こうしたことの一つ一つは、まさに、大勢の聞こえる人の輪に入った時の、聞こえない人の思いそのものでもあり、聞こえる人と聞こえない人との、すれ違いのもとになりそうな種でもあります。
短い時間に、これだけのことを感じて報告してくれた学生たちの感受性にも、素晴らしいものがあります。ずっと忘れずにいてほしいです。
学生たちには、こうした体験もまた、大事に心に留めて、卒業していってもらいたいと思います。
手話を学ぶあなたも、こうした体験にチャレンジしてみてください。自分が気づいたこと、自分が感じたことこそが、聞こえない方と知り合うための、大事な手掛かりになるはずです。
今日も長文を読んでいただき、ありがとうございます。

毎年恒例、今の時期の、短大の畑の収穫物お裾分け。真冬ですが、夏みかんは今が旬!という不思議。
短大に通っていなければ、食べ物にうとい私は、一生、このことを知らなかった!と思っています。笑
季節の移り変わりが嬉しいですね。