米内山明宏さんの思いは若者たちに引き継がれている
2023年1月29日、米内山明宏さんが、心不全のため亡くなった。
ろう者としての演劇活動を続け、日本で初めての大型ろう者劇団を立ち上げ、海外でも数々の公演を行い、現在の手話狂言の最初の一歩を踏み出し、日本のろう者の演劇の歴史を変えた人物だ。
演劇界の重鎮、寺山修司など、さまざまな聴者演劇人ともコラボを果たし、活動の礎を築いた。
まだまだこれからだと思っていたし、私自身また、何かの折にはご一緒させていただけると信じて疑っていなかった。まだ70歳だった。
私が東京に出てきて間もない20代の頃から、一緒に仕事をさせていただいたり、通訳をさせていただいたりし、米内山さんの手話で語られる一言一言が、私の糧となった。
彼が手話で語る「プライド」というストーリーを、日本語に翻訳させていただいたこともあった。
まだ中学生だった娘の米内山陽子ちゃんが、きいろぐみの舞台に立ってくれたこともあったし、私が、舞台活動で迷った時は、陽子ちゃんを通じて、励ましのメッセージをくださったこともあった。
今、折に触れ、ともに仕事をさせてもらっている江副悟史くん(現日本ろう者劇団代表)も、そんな米内山さんの後進にあたる。日本手話の見事さと、周りの人を巻き込み共に前へ踏み出す江副君の姿は、まさに、かつての米内山さんの、確かな一歩のその未来だ。
(日本ろう者劇団 http://www.totto.or.jp/02/index.html )
今、手話狂言は、全国でその舞台を待つ人がおり、江副くんたちが若手で作り上げる手話のトークと演劇集団男組も、また、勢いを増し、ろうの若者たちの人気を集めている。
米内山さんの頃とは、手法も取り組みも違うが、確かにその魂が、彼らの中にあるのが見える。
(男組 https://www.deaf-otoko.com/profile/ )
現在、私たちが手がけている全国テレビ朝日系ドラマ「星降る夜に」には、ろうの手話指導者 寺澤英弥さんが出演しているが、寺澤さんが、活動を続ける手話寺子屋もまた、最初の手がかりは、米内山さんたちが作ったものだ。
かつて「日本手話」の良さ、特徴、あり方を多くの人に見てもらうため創刊されたビデオ「手話マガジン」の編集長が米内山さんであった。今、毎回のように、寺澤さんたちが、YouTubeにアップしている短い手話トークは、その手話マガジンに掲載されていた内容が引き継がれたものだ。
毎回の時事ネタ、ファッションネタなどが、ろうの人のネイティブな手話で語られる映像は、私も当時、何度も見ては、手話の魅力に浸り、また自分自身の手話学習の教材にもさせてもらった。
どうにもわからない、ネイティブな表現を、わかろうとして何度も何度も見て、それでもわからず、2〜3か月して、また見ると、パッと閃いたように中身のわかる瞬間があり、その感動が、私を手話マガジンの虜にした。
今も、私は、寺澤さんたちの映像から、手話の魅力も、また、私の知らない聾者の世界のことも、たくさん教えてもらっている。
(手話寺子屋 https://www.youtube.com/channel/UCcTlpqCFCytce1odPBmqivQ?app=desktop )
かつて、米内山さんが、生み出したものは、今大きな2つの流れにつながっている。
一つは、聾者の演劇。そして、もう一つは、日本手話を世に伝える活動だ。
どちらも、聾者にとっては、命であり、生き様であり、今数々の表現者や指導者が生まれていることは、米内山さん自身と、時代を共にしたろうの人々が、当時の悔しさや生きにくさを、草を分けるように切り開き、踏みしめてきたその道の先である。
私たちは、米内山さんの思いや行動を道標に、今、次の時代を歩こうとしている。
2月2日夜、米内山明宏さんの、通夜が営まれ、ろうの人、関係者、手話者、コーダなど、さまざまな人が集まって、別れを惜しんだ。
多くの人が、棺に眠る米内山さんの顔を見つめ、手話で彼に語りかけた。お礼を言う人、思い出を語る人、また会おうと言う人、一人一人の手の言葉が、愛情に溢れていた。
私も、何か手話で伝えようとしたが、米内山さんの顔を見たら、懐かしい温もりが生前そのままで、別れが寂しくて涙が止まらなくなり、かっこいいことは何一つ言えなかった。
暖かい手と、がっしりとした肩で抱き寄せてくれた米内山さんのことは、触れ合った誰もが、決して忘れえぬものであり、彼の顔は微笑んでいるようだった。
ろう者の言葉は手話だ。と、まだ若かりし彼が語り、いつしか長老となり、消える時、その思いも行動も、たくさんの若者に引き継がれているのを、目の前で見ることになった。
この全てが米内山劇場だったのだと、しずかに感じ、この手に握りしめ、明日も朝日を見よう!と思った。
米内山明宏さんが、見せてくれた生き様と、彼を通じてもらったたくさんの出会い。また、ご家族の皆様の、日頃よりの変わらぬご好意に、心から感謝申し上げます。
手話あいらんど
手話パフォーマンスきいろぐみ
代表 南 瑠霞