★星降る夜に☆彡 聞こえない人へのQはどう出されたのか?
ドラマは、先週最終回となりました。今週もう放送は、ありません。笑
今、多くのろうの方、手話関係者の方から、良かった!と便りが届き、ホッとしています。
手話担当者として、ドラマのストーリーはもちろんですが、やはり手話をどうドラマに取り入れてもらうか、役者さんたちに「手話というセリフ」を、どう演じてもらうかは、大きな課題であり、最後まで、さまざまな思いを巡らせながら、撮影に立ち会い続けてきました。
3月中旬を過ぎ、ようやく、ホッとして日常を送っています。笑
今回、星降る夜にのドラマでは、二人のろうの方も出演されました。
お一人は、リアル手話の先生で、2020オリパラでは、ろう通訳としても注目された寺澤英弥さん。
もう一人は、若い頃から日本ろう者劇団の舞台に立ち続けてきたろう者女優、五十嵐由美子さんです。
ここからの時代は、耳の聞こえない俳優さんたちも、ドラマなどにどんどん登場してくるであろうことを、真っ直ぐに想像させてくれるお二人の活躍ぶりに、現場の私たちも、とても興奮しました。
ろうの役者さんが出演するにあたり、現場スタッフは、聞こえる役者さんの場合とは、ちょっと違うフットワークが求められます。
その一つは、撮影の始まりと終わりを知らせる「Q」と「カット」の合図です。
聞こえる人の場合、合図の声は、どちらを向いていても聞こえ、すぐに動き出すことができますが、聞こえない人には、その合図が、「目で見える」必要があります。
今回、寺澤さんの場合は、通訳の方が、カメラ近くの目線の位置に入り、動きはじめの合図を送っておられました。
また、五十嵐さんへの合図は、手話担当の助監督さん(中村くんと言います)が、走り回って、必要な位置に入りこみ、次々にQを出しておられたのが、印象的でした。中村くんは、事前に私たちと相談などをしたわけでなく、聞こえないなら見える位置に入ろうとご自身で判断して、どんどん動いていったのです。
今回のドラマでは、本当に、時代の流れを感じ、ろう者と共にいる人は、「してあげる」から「必要な行動をとる」にシフトされてきたのが、肌で感じられ、爽やかな気持ちをもらい続けた毎日でした。
おそらく、中村くんに、このことを褒めても、ただフツーに動いただけなので、意味がわからないであろうし、逆に意味がわかる人であれば、褒め言葉すら意味を失うので、私はこのことを彼と話すこともないかもしれません。
ただ、手話とろう者の歴史を知る先輩方に、このことを知らせるために、このブログに記します。
中村くんが、新しい時代を持ってきてくれました。
手話を扱う大事なドラマの陰で、走り回った中村くんというスタッフがいます。どうぞ、もし良かったら、お見知り置きください。
さて、話はQに戻りますが、五十嵐さんへのQで、最も身近な人も、どんどん現場で協力しておられたことを、皆さんにお伝えしたいと思います。
それは、北村くんと、吉高さんです。
現場が狭く、誰も五十嵐さんの目線に入れないときは、まさに正面にいる北村くんや吉高さんが、さりげなーく、フッと合図を送って五十嵐さんに、Qを出していた場面もありました。
また、聞こえない人に、Qを出さなければいけないことは、もはや多くの人の理解するところですが、「カット」の掛け声は、撮影が終わった瞬間なので、誰もがホッとしたまま忘れて、五十嵐さんが気づかなかったことが、ありました。
五十嵐さんは、そんな場面で、撮影の終わりを知らず、本番の続きの料理を、さらに食べ続けていたことが。。。大汗 かなり食べたところで、北村くんがハッと気づいて!
「あ、カットです。カット!!五十嵐さんずっと食べてる!終わりです。」と、手話をしてくれたことがありました。
(その日の五十嵐さんは、撮影で満腹になってしまい、お腹は大丈夫だろうかと心配しましたが、さすが、いつまでもお元気な役者さんで、全く問題なく、次も、またその次の撮影もご健康に現場に来てくださって、これもまた、私には大きな励みになりました。。。汗)
そんな出来事の後、「カット」は、多くのシーン終わりで、目の前にいる北村くんや吉高さんが、五十嵐さんに伝える役目となりました。
北村くんにとって、話題になった「av」「駅弁」「仲直り」などの手話も、皆さんの目にはテレビから元気に届いたと思いますが、五十嵐さんと場面を共有しながら彼が表し続けた、現場でしか見ることのない「カット」という手話も、ドラマと共に、彼の心に残るものになったのではないでしょうか?
また、病院で、眠ったままのカネが、パッと目を開けるシーンでは、声でQを伝えることができない中、撮影担当の助監督さんと相談し、「目をつむって、5つ数えたら、目を開けて演技をスタートください。」と約束して、カメラが回り始め、撮影が進行しました。
関わるすべての人が協力し合って、五十嵐さんのコミカルなシーンが生まれて行ったこと、私はずっと忘れません。
このベッドのシーンでは、五十嵐さんは、ベッドに横たわったまま、天井を見て待っている時間も長く、合間には、北村くんが、「今、カメラ準備中」など、ちょっとした情報も、伝えてくれていたのだと、後から、五十嵐さんからお話をお聞きしました。
近くにいる人ならではの、素敵なコミュニケーション。
それが、たくさん生まれたこのドラマに、私はあとからあとから、嬉しさが湧いてきます。
多くの人が、聞こえない役者さんと共に、ドラマを作った思い出は、それぞれの役者さんやスタッフみんなの心に残り、チームが解散した後も、しっかりとそのタネを握ってたんぽぽの綿毛のように散って行ったように思います。
みんな、きっと忘れない。そして、また、出会いがあれば思い出す。まさに、ポラリスような場が、撮影現場にあったことを、ドラマ終了後ではありますが、皆さんに熱くお伝えします。
この時代の変化に、最も近くで触れさせていただいたこと、心から感謝です。
寺澤英弥さん、五十嵐由美子さん、私たちに素敵な夢を与えてくださって、本当にありがとうございました!!