舞台通訳〜ロールシフトは重要課題
(講座では、たくさんのディスカッションもしました。)
4月27日土曜、福岡や京都、千葉・神奈川・埼玉・都内の方など、およそ10人が集まって、「舞台通訳を目指す」講座が開かれました。
舞台通訳の基本は、ほぼ、一般の聞き取り通訳と同じ。聞いた話をしっかりと通訳できる基礎能力は、必須です。
文の句切れを、意味通りしっかりとまとめられたか。わかりやすい動きで表現しているか。文の流れで、手話の単語の動きが変化していくことを理解しているか。日本語の単語と手話の単語は呼応していない(言葉の意味の範囲が違う)ので、適切な語彙を選んでいるか、、、などなど、基本的に求められる項目は、いろいろあります。
手話通訳には、高い技量が求めれますね。
さて、そんな中、舞台通訳では、いくつか注意したいことがあります。
▪️通訳者は、本番中、どこを見ているのか?
▪️役者さんが目の前に描き出した空間、風景を利用して通訳したい。
▪️ セリフがない時、通訳者はどうするのか?役者さんが、どこから入ってきてどう動くかによって、それを受けながら通訳をしたい。素になる時はない。
▪️文字からわかるセリフだけでなく、その時役者さんが背負っている感情や背景も汲んで、意味をとらえたい。強い語調のセリフと、細い声のセリフなどでは、同じ言葉の言い回しでも、意味が変わり、選ぶ手話単語自体変わってくる場合もある。そこには、男性か女性か、上品な人か、親を失った子供か、そういった役柄の生い立ちすら関わってくる。手話の翻訳や表現方法は、役者さんの役柄が持つ幅や重みによって、違いが出る。
などなど、興味深いことは、たくさんあります。
一方それらの大半を一気に引き受けているのが、ロールシフトだということもできます。
あなたが、舞台上の誰にシフトし、どう表現するかは、日頃の通訳でも、舞台通訳でも重要なポイントとなります。
ここでは、授業で取り上げた、多くのテーマの中から、ロールシフトにおける、一つの例を、ご紹介しましょう。
それは、皆さんが地元の授業で習った「一人で行うロールシフト」と、「舞台で、複数の人がいる時(これも多くの方が地元などでは、通訳されていると思いますが)のロールシフト」は、「全く違う」ということです。
【多くの人が手話の授業で習っているロールシフト】は、これ。
Aさんと、Bさんの会話を、自分一人で、このように左右などに振って表現する方法です。あなたもやってみてください。
A「あなた、どこからきたの?」
B「私?沖縄から。」
A「へえ、遠かったのでは?」
B「はい。でも、東京にとても来たかったので、ワクワクしています。」
これは、ロールシフトの中でも、一人で、二人の人を演じ分けて、誰のセリフかわかるようにするものです。
ところで、次に!!
市や町のイベントで、本物の司会者やゲストがいる際のトークでは、どうでしょう?
多くの人が、行なっているのがこれです。
【2人のトークのロールシフト。これで、正しい?】
図は、あるイベントの様子です。
向かって一番左(下手)が、手話通訳者。
Aさんが司会者で、Bさんはそれに答える本日のゲストです。そして、この画面を見ているあなたの位置が、会場のお客様だと考えてみましょう。
この時、多くの人は、Aの人のセリフを、Aの人の向きに。Bの人のセリフを、Bと同じ方向に向いて、通訳しています。
これは、授業で習った一人で表現する時のロールシフトをお手本にしたものだと思いますが、これ、本当に合っているのでしょうか?
実は、ここに、落とし穴があるのです。
通訳者がこうやって、AとBの人の位置と向きに合わせて、手話を振り分けてしまうと、舞台のポイントが同時に2つできてしまいます。実際に、話している二人と、通訳のロールシフトが切り離されて、別々に舞台に立ってしまうことになるのです。
この時、通訳者は、「出演者を見せる」ことではなく、自分は自分で状況を演じてしまうことに注力してしまっています。「手話は、私を見て!」という、オーラが出てしまうのです。
また、上の図の、通訳者の枠外に出てしまっている左の矢印の方向には、お客さんも誰もいません。汗笑 この手話、一体誰に見せているのでしょうか?汗 これは、お客さんに、手話を見ていただくにも、適した方向ではないかもしれません。
このケースでは、手話を見る人にとっては、せっかく出演者がいるのに、その存在が薄れてしまっているように感じられます。
そこで、考えたいのが、こちらです。
【舞台でのナチュラルなロールシフト】
ここでは、出演者2人の通訳をしたい皆さんに、180度発想を変えていただかなければいけません。
「一人で行うロールシフト」と、実際に「人が2人いる際のロールシフト」は違うのです。
一人で行うロールシフトでは、「自分で二人の人物を、表現し分け」ることが必要になってきます。
でも、目の前に、実際に二人の人がいるとき、私たちは、ロールシフトで「その人の目」にならなければいけないのです。
「話し手の目になる」とはどういうことなのかというと・・・
Aさんが「あなたは、どこからきたのですか?」と尋ねるとき、その目は、Bさんを見ています。
ですから、通訳者のあなたも、Bさんを見るのが自然です。向きが反対だと思っても、Aが見ているのは、Bさんなので、Bさん(中央のゲスト)を目に入れて、手話をします。
一方、Bさんは、質問に答えるゲストの側で、いわばステージでは、お客さんたちに、お話を聞いてもらうべき人です。その人は、おそらく、ややお客様の方向に向いて話すであろうことが想像されるので、Bさんの目になるなら、手話もやや前向きに、お客様に向かって表現するのが自然です。
では、改めて、これで、手話表現してみてください。
A の話につける手話
(ゲストに向かって)「あなたは、どちらからきたのですか?」
Bのお話につける手話
(ややお客さん側に向かって)「沖縄から来ました。」
A
(再びゲストに向かって)「それは、遠かったですね。」
B
(お客さん側に向かって)「いえ、とても東京に来たかったので、今、ワクワクしています。」
これで、手話通訳者が、しっかり出演者を立て、話しているのが誰か、答えているのが誰かが、わかる表現になります。
この方向のルール(その人の目になる)は、もし通訳の位置や、舞台の出演者の場所が変わっても、同じです。
またこれは、あなたの地元の一般のイベント通訳でも、出演者が演じる本格的な舞台の通訳でも、活かせます。
通訳を目指すすべてのあなたに、ぜひ、考えていただきたい課題です。
(南の経験の中から、いろんなことをお伝えしていきたいと思っています。)
ちなみに、ここでちょっと話を戻し、実は、一人でロールシフトする時も、フォーカスすべきは、「体の向き」ではなく!「その人の目」です。
Aさんの役の時、Aさんの目はBさんを見ているので、通訳の目にもBさんが、見えているはず。
Bさん役の時は、Bさんの目はAさんを見ているので、通訳の目にもAさんが、見えているはず。
体の向きより、「何を見ているか」の方が大切です。おそらくここも、見直してみると、あなたの表現が、グッと変わると思います。
(みなさんの実践は、それぞれ自分のスマホで映像を撮って、見直しながら進行。)
今回ご紹介したのは、講座の一部です。あなたもぜひ、機会があったら、会場に足を運んでくださいね。
遠方から、お越しくださった皆さん、楽しく参加していただき、本当にありがとうございました。
感謝です。
(講座終了後は、近くでちょっと一杯。笑 みんなの活動の悩み事や笑い話もいろいろ飛び出しました。)
※写真は、助っ人のSさんや、スタッフのAくん。そして、受講生の方などが、撮ってくださいました。
※ご協力くださったアシスタント、プロジェクタースタッフの皆さんも、本当にありがとうございました。