手話通訳(聞き取り通訳)の交代
図の向かって右、グレーのスーツの人が、何かを解説する講演者。左の紺のスーツが手話通訳者です。
(ちなみに舞台は、向かって右が上手(かみて)、左が下手(しもて)と言います。)
手話のほか、英語などでも言語通訳は、2時間程度の一般の講演・トークなどでは、通常2人体制。15分から20分おきに交代します。通訳は、一つの言語から意味をつかみ、もう一方の言語に変えるという脳内作業があり、集中力が続くのがおよそこの時間だといわれているからです。これ以上の時間は、通訳者が疲れて頭がぼーっとし、良質の通訳が保てなくなります。そうなると通訳の質が落ち、結果としてそれをみる聞こえない人が不利益を被るからです。
また、手話通訳の場合、実際腕などを酷使することになり、適切な休みが取れないと精神疲労も加わって、「頸肩腕症」を発症する恐れもあります。首や肩、腕や手などが痛くなり、体が動かせなくなったり、精神状態が不安定になったりする手話通訳者特有の職業病です。
そんなわけで、手話通訳者活動をする限り、チームを組めば、講演者の話が続く中、何らかの方法で交代をしなければなりません。
先日、手話通訳の勉強会で、交代の仕方についていろんな悩みをお聞きしたので、記しておきましょう。
○ 時間は、ストップウォッチか何かで、測らなければいけないの?
○ 交代をどんなタイミングでしたらいいのかわからない。交代に出てから、話のタイミングを待っていたら、いつまでもぼーっと後ろに立ってしまい、先輩に注意された。
○ ただ交代してそこから手話を続ければいいの?
などなど、初心者では、全てがドキドキ不安になるようです。
【時計】
手話通訳者は通常、やや暗がりでも見やすい(待機場所は、本番スペースより暗く設定されていることが多い)、大きな数字が表記された比較的大きいサイズの、腕時計を持っていることが多いと思います。私も、そういう通訳用の時計は、一つ持っています。
(というのも、私の時計は、カラフルで真っ赤なものや、いろんな模様が入ったもの、真珠の鎖のようなものしか持っておらず(大汗)、紺色のバンドで数字の見やすい安い時計を特別に買ったので、必要な時はそれをカバンに入れて持って行っています。汗笑)
最近では、スマホやタブレットで時計を出して立てかけておき、みんなで共通で見たりする方法もあるので、とにかく、チームで互いに時間がわかる方法であれば、なんでも大丈夫だと思います。
【交代のタイミング】
交代のタイミングは、「事前にチームで確認しておく」ことが大切です。
その上で、内容の変わり目で交代することが可能であれば、その方法を探ります。最初にある程度タイムスケジュールが出ていれば、どんな内容を何分くらい話すかわかる場合もあるので、その流れの15分か20分くらいの区切れめを狙って、うまく交代することを考える。
また、そうしたことが全く読めない講演者の場合は、時間を決めたら、そのままその通りに交代する方法もあります。
また交代は、「躊躇せず行う」ことも大切です。聞いている音声の区切れめを狙っても、手話の方が表出が遅れている場合がほとんどです。慌ててしまうと良きタイミングを狙えず、いつまでもオドオドしてしまうことがあります。でも、「代わる!」と決めたら、迷わず、さっと入れ替わった方が、見ている人に安心感を与えます。
また、交代は、基本的に「後ろ」の人にかかっています。通訳をし続けている人は、内容に注力していますから、変わるタイミングを、後ろの人に譲ることはできません。後ろの人が知らせて積極的に代わる。これが、基本になります。
【交代の方法と注意点】
では、その通訳の交代。一体どうしたらいいのでしょう。
通訳の交代は、図の赤い矢印のように、通訳に近い袖から出入りするのが一般的です。通訳が下手にいるのに、交代上手から出てくるなどということは、稀なケースです。通訳の交代はできるだけ目立たずスッキリ、最短動線で行いましょう。
そして、皆さんがよくみる、肩を叩いての交代です。通訳をしている人の後ろから、次の人が肩を叩いて知らせる方法です。
この時、前の人が下がる時のターンの方向なども、事前に決めておくと安心です。
後ろの人が左から回り込み、左肩を叩かれたら、前の人は右側にまわって下がる。前の人が左側に去るなら、後ろの人は右肩をそっと押すように知らせるなどの方法が工夫できます。この確認を忘れ、その場で慌てて行うと、交代のたびに方向が変わり、自分たちも混乱ますし、見る人の目も忙しくなってしまいます。
このほか、現場によっては、小声で知らせる、先に回り込んで目くばせする。など、先輩方は、いろんな方法を行なっているようです。
また、交代では、前の人の手話の内容が尻切れトンボにならないようにすることも大切です。前の人がどこまで表出したか、手話をよく見て、必要であれば、自分も最初に前の文も表した方がうまく引き継げる場合があります。皆さんも、練習してみてください。
【そのほか】
このほか事前確認しておきたいのは、「服装」や「出て来る話題」の概要などです。
できればチームの皆さんで、スーツかシャツか、どんな色かなどを揃えておくと、人が変わるたびにトーンが変わることなく、見る人の目が落ち着きます。
どんな話題が出るか、専門用語なども、メンバーで確認しておくと、より良い通訳ができます。
専門用語は、手話の表出方法を合わせておくことも大切ですが、なぜ、そのような表現になっているのか、またその言葉はどういう意味合いがあって使われていうのかというところまで調べておくと、奥行きのある通訳が可能です。
チームで話し合えば、いろんな工夫もできます。
当日、人手がある場合、目の前に資料を見ながら一緒に手話をチェックしてくれる人がいると、より安心です。例えば聞き取りにくい発声の方が何を言ったかなどのほか、「交渉」と「校章」、「反則」と「販促」などの同音異義語や、「計画書」と「契約書」、「宴(うたげ)」と「歌え」といった言葉の聞き違いなども、手話で教えてくれます。
【新人が先に担当する】
それから、最後に。
こうした通訳の順番、新人さんは、つい「どうぞ、先輩がお先に」と言ってしまいがちです。自信がなかったり、先輩を差し置いて私が先にやるのはおこがましいなどと思ってしまうのかもしれせん。
でも、後輩が先にやれば、先輩は上手いわけですから、それに続く表現方法などをある程度合わせたり補ったりしてくれます。逆に、うまい先輩が先に立つと、続く後輩はそれに合わせられず、とても苦労することになる場合があります。汗笑
また、お話は、序盤の方が自己紹介や概要が多いのでまとめやすく、後ろに行くほど複雑な構成になってくる場面が増えてきます。そういう意味でも、新人は、できるだけ、先に通訳をやらせてもらう方が、理にかなっています。
どうでしょうか?
あなたの通訳活動にも役立つ情報はありましたか?
チームで行う手話通訳は、コミュニケーションなど面倒なこともありますが(笑)、一緒にやればより良い内容が伝えられ、聞こえない人にもメリットがいっぱいあります。
周りの通訳者の皆さんと良きチームワークで、日頃の活動を豊かにしていきましょう。
